本研究では、植物において未だに発見されていない亜鉛欠乏を感知するセンサータンパク質の同定とその機能解析に取り組む。申請者は、bzip19シロイヌナズナ変異体の解析や定量プロテオーム解析の結果から、転写因子bZIP19が亜鉛欠乏時の亜鉛恒常性維持に重要な役割を持つことを明らかにしている。そこで、bZIP19自身またはその相互作用タンパク質が亜鉛欠乏センサーとして働く可能性を考えている。 平成28年度は、平成27年度から引き続き、bZIP19が発現を制御する新規遺伝子として同定された3種類の分泌ペプチドのうち、亜鉛欠乏に対して発現量が著しく増加したペプチドをP2と名付けて集中的に解析した。P2のT-DNA挿入変異体および過剰発現体を亜鉛十分培地および亜鉛欠乏培地で生育し、表現型観察を行った。この結果、野生型と過剰発現体との間で変化が見られなかったが、変異体ではやや亜鉛欠乏に対して感受性を示した。さらに、根と葉の細胞内亜鉛濃度は、変異体ではやや亜鉛含有量が低下していた。またP2遺伝子は亜鉛欠乏時に発現量が増加し、生育環境中の亜鉛濃度が高まるにつれて発現量が減少することが明らかになった。一方、他の元素欠乏時にはほとんど発現量の変化は示さなかったが、鉄欠乏時においてのみ発現量が減少した。興味深いことに鉄過剰では発現量が上昇し、亜鉛の濃度とまったく逆の応答を示した。そこで鉄過剰における表現型観察を行ったところ、変異体はCol-0に比べて生育阻害を示した。また、P2自己プロモータに制御されたP2とGFP融合タンパク質を発現する形質転換体を作成し、顕微鏡観察したところ、細胞膜あるいは細胞外に局在化した。また亜鉛欠乏下と過剰鉄存在下で特にGFP蛍光が強くなることが確認され、mRNA発現レベルの結果と一致した。現在は、P2が亜鉛と鉄の恒常性維持の両方あるいはどちらに寄与するのかその詳細を解析している。
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