研究実績の概要 |
今年度は、OR-1株を酢酸を炭素源、ヒ酸またはフマル酸を最終電子受容体として嫌気的に生育させ、全タンパク質抽出を行った。タンパク質は1D SDS-PAGEとLC-MS/MSを用いて同定した。ゲノムワイドで定量的な解析法を行うため、emPAIに基づいたラベルフリーな半定量的なプロテオーム解析アプローチを用いた。その結果、ヒ酸とフマル酸生育条件下において、それぞれ985個と831個のタンパク質が同定された。ヒ酸生育条件下では、フマル酸生育時と比較して、異化的ヒ酸還元酵素ArrABが高い発現量を示し、Arrの活性中心molybdopterinの生合成系や亜ヒ酸排出に関わるArsAの発現上昇も見られた。また、抗酸化酵素(peroxiredoxin, rubrerythrin, rubredoxin)、ストレス応答(UspA, Hsp90) 、folding関連タンパク質(SurA)、分子シャペロン(ClpB, DnaJK, GrpE)、trigger factorなどの発現上昇が確認された。さらに、mismatch repair 関連酵素、mRNA・tRNA合成酵素、elongation factorの発現も上昇していた。ヒ酸生育時には、ヒ酸のアナログであるリン酸transporterの発現上昇が見られ、硫黄代謝経路の活性化、特にthiol基の再形成に関わる酵素が発現上昇していた。これは、亜ヒ酸とthiol基の親和性が高いことに関連すると考えられた。エネルギー代謝に関して、NADH dehydrogenase や、H+-ATPaseの発現は低下した一方、酢酸の活性化経路、および還元的アセチルCoA経路の活性化が見られた。以上の結果から、OR-1 株は高濃度のヒ素に曝露されることで、ヒ素代謝酵素群のみならず、抗酸化酵素、分子シャペロンなどを協調的に発現上昇させると共に、硫黄、エネルギー代謝系を活性化することで、ヒ素耐性を獲得することが示唆された。
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