研究課題/領域番号 |
26450088
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
本田 孝祐 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90403162)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 補酵素 / 好熱菌 / 耐熱性酵素 / サルベージ合成 |
研究実績の概要 |
NAD+、NADHに代表されるニコチンアミド補酵素は、あらゆる生物で普遍的に用いられる酸化還元補酵素である。70℃を超える高温でも良好に生育できる好熱菌もその例外ではないが、これらの微生物の最適生育温度においてニコチンアミド補酵素は容易に熱分解を受ける。本研究代表者は、好熱菌は高温環境下でニコチンアミド補酵素を安定的に利用するため、同物質の熱分解産物よりニコチンアミド補酵素を速やかに再構成可能な発達した合成経路(サルベージ合成経路)を有しているとの仮説を有している。本課題では、この仮説に基づき、当該酵素群の探索と同定を行う。 H26年度は、ニコチンアミド補酵素のうち、特にNAD+に焦点を当てた研究を実施した。まずNAD+の標準標品を熱処理に供した後、生じる分解産物を同定した。この結果、NAD+はニコチンアミドとADP-リボースへと分解されることが明らかとなった。次いで、好熱菌Thermus thermophilusのゲノム情報に基づき、これらの熱分解産物からのNAD+再合成に関与すると思われる酵素遺伝子を選抜した。この結果、ニコチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAPRT)、ニコチン酸モノヌクレオチド(NaMN)アデニリルトランスフェラーゼ(NaMNAT)、NAD+シンターゼ(NADS)、ADP-リボースピロフォスファターゼ(ADPRRP)、ホスホリボシルキナーゼ(PRK)の6つの酵素を取得し、それらが所望の活性を有することを確認した。また、ホモロジー検索の結果に基づき、ニコチンアミドの脱アミノ化反応を触媒する酵素遺伝子を新たに同定することに成功した。以上により、ニコチンアミドの脱アミノ化を初発反応とし、NAPRT、NaMNAT、NADSによる4段階の反応で、NAD+を再構成可能なサルベージ合成経路の存在を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度の研究で、NAD+の熱分解産物を同定するとともに、これらからNAD+を再構成するための一連の酵素遺伝子群を同定することができた。これにより、本研究課題のもうひとつの大きな目標であるin vitroでのNAD+サルベージ合成代謝経路再構築と、これによるニコチンアミド補酵素の安定化技術開発に向け、必要な酵素遺伝子が完備された。以上より、当該年度における研究の達成度は当初計画以上のものであると評価している。 一方で、これまでの研究で、今回同定した酵素群のうち、NaMNATが、NaMNに対するアデニリル化だけでなく、NaMNがアミド化された中間体(ニコチンアミドモノヌクレオチド、NMN)に対しても同様の活性を示すことが見出されている。すなわち、T. thermophilusはこれまでに同定した酵素群に加え、NaMNのアミド化、もしくはニコチンアミドへの直接的なホスホリボシル化によりNMNを生成する酵素を有している可能性が考えられる。すなわち本菌はNAD+再合成のため、すでに同定済みのものとは異なる別のルートを有しており、これら2~3種類のサルベージ経路を併用することにより高温条件下におけるニコチンアミド補酵素の安定的利用を達成している可能性が示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
以下の3点について、今後の研究を推進する。 (1) T. thermophilusにおけるNAD+サルベージ合成経路の全容解明。上記のとおり、T. thermophilusにおいては、すでに同定したものとは異なるNAD+合成経路を有する可能性が示唆されており、またこれらが高温環境下におけるニコチンアミド補酵素の安定的利用に協調的に寄与している可能性が考えられている。これら未知の酵素群および合成経路の同定を進め、当該酵素遺伝子のノックアウト等により、好熱菌細胞内におけるNAD+濃度やそれらが生育温度に及ぼす影響などを精査する。 (2) In vitroでのNAD+サルベージ合成経路の構築。すでに同定済みの酵素群を組み合わせ、in vitroでのNAD+サルベージ合成を実現する。これによりNAD+の見かけ上の安定化を達成し、NAD(H)依存性耐熱性酵素を用いた各種の有用化学品合成や診断技術のフィージビリティー向上を図る。 (3) NADHの熱分解産物とサルベージ合成経路の解明。NAD+の還元型補酵素であるNADHについても、同様の方法論に則り、好熱菌におけるサルベージ合成酵素群の同定を目指す。すでにNADHの熱分解産物のプロファイリング実験を開始しているが、NAD+のそれとは全くことなる結果が得られており、新たな合成酵素、代謝経路の存在が強く示唆されている。
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次年度使用額が生じた理由 |
好熱菌におけるNAD+サルベージ合成酵素群を探索するにあたり、すでに全ゲノム情報と1遺伝子発現ライブラリーが利用可能なThermus thermophilusを主たる研究対象に据えたため、目的酵素群の効率的探索が可能となった。このため、実験に用いる物品費が当初見積もりより低く抑えられた。一方で、当初計画以上の研究の進捗により、成果報告などのための旅費が交付決定時の予算額より大きくなった。これらの差引により、当該年度の実支出額は予算額よりも若干少ないものとなり、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
上述のとおり、当初計画以上に研究が進捗しており、成果報告のための旅費や論文出版費が交付決定額よりも大きくなる見込みである。次年度使用額は、これらの用途に使用する予定である。
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