大腸菌は硫酸塩とチオ硫酸塩が同時に存在すると、チオ硫酸塩からシステインを優先的に合成する硫黄源の選択的利用機構を有していることを見出した。さらに、硫酸経路からシステインを合成するには2分子のATPの消費を伴う一方、チオ硫酸経路はATPの消費を伴わない。生物は栄養を外界から取り込み、代謝して細胞構成成分を合成し、エネルギーを生産する。これは生命の根本性質の一つである。本研究では、①外界のチオ硫酸塩と硫酸塩の異なる2つの硫黄源をどのように大腸菌がセンシングしているのか、②二つの異なる硫黄同化経路と異化(中央代謝)経路との共役機構を司る因子の探索、③これら共役機構を人為的に脱共役させることで、増殖に必要な異化を伴わず基質から有用物質を生産し続ける大腸菌の育種を目指している。本研究課題では、微生物・植物に共通の硫黄同化経路から生じる低分子硫黄化合物(亜硫酸イオン)のセカンドメッセンジャーとしての役割、環境中の硫黄のセンシング、炭素・窒素代謝との共役機構を明らかにし、それらシグナル分子の高度利用化によるシステン発酵生産への有用性を評価した。平成26年度はLC-MSMSシステムを用いた硫黄のメタボローム解析技術を構築した。平成27年度は硫黄代謝関連遺伝子群の発現プロファイルを解析できる系を構築した。最終年度である平成28年度は、活性硫黄種(亜硫酸・硫化物イオンなど)をシグナル分子として捉え、その高度利用化によるシステイン発酵生産への有用性を評価した。
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