研究課題/領域番号 |
26450094
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
足立 収生 山口大学, その他部局等, 名誉教授 (20027189)
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研究分担者 |
赤壁 善彦 山口大学, 農学部, 教授 (20274186)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 酸化発酵 / 分子内ケトンをもつ酸化糖 / 膜結合型脱水素酵素 / 4-ケトアラボン酸 / 4-ケトリボン酸 / 5-ケトフルクトース / 5-ケトプシコース / カルボニル酸化糖 |
研究実績の概要 |
分子内ケトンを持つ酸化糖として、3-ケトエリスロン酸、4-ケトアラボン酸、4-ケトリボン酸、5-ケトフルクトース、5-ケトプシコース、などの生成を触媒する酵素を酢酸菌細胞膜から可溶化・単離した。いずれも典型的なPQQ-依存型脱水素酵素で、EDTA処理によって不活性なアポ型になって酵素活性を喪失した。アポ型酵素はPQQとCa-イオンの添加によって、ほぼ100%近く活性化された。エリスロース、アラボン酸、リボン酸、果糖、プシコースの底辺の上に位置する2級アルコールを酸化して、相当する分子内にケトンを有する酸化糖(新規なカルボニル糖)を生成した。 ノジリマイシンやデオキシノジリマイシンなどは、グルコシダーゼの強力な阻害剤として糖尿病の薬として利用されている。果糖の酸化物に相当する5-ケト果糖は、これらの薬剤合成の前駆体としての意義をもっている。本研究から得られた新規なカルボニル糖も同様に種々な薬剤合成の”Building block”としての用途が期待される。 当該酵素の可溶化・精製において特徴的なことは、当該酵素は酸性域で極めて安定であり、pH 4.0でクロマトすることで、不純物を酸変性させて除去できるので、簡便なクロマト操作で容易に精製できることであった。将来の企業化に際しても製造価格を低廉化できる見通しを与えることは、多くの点で有利な要件と言える。 精製酵素はヘム成分を含まず、酵素活性測定にはPMS-DCIPが電子受容体として使用できた。精製酵素は分子質量80 kDaと14 kDaの2つのサブユニットから構成され、既知の酵素のなかではPQQ-依存性グルコース脱水素酵素にその吸収スペクトルが類似していたが、精製酵素そのものにはグルコース酸化活性はなく、新規な酵素であると推測できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要に示した目的はほぼ達成され、平成28年3月開催の日本農芸化学会大会で平成27年度に実施した研究結果の全貌を発表した。3-ケトエリスロン酸、4-ケトアラボン酸、4-ケトリボン酸、5-ケトフルクトース、5-ケトプシコースなどのカルボニル酸化糖の生成を触媒する酵素の酢酸菌細胞膜からの可溶化・精製を済ませた。このような新規なカルボニル酸化糖はこれまでほとんど知られていなかったので、どのような用途が期待できるかも議論されていないが、論文として発表することで素材化学や創薬科学分野からの注目を集めるに相違ない。精製酵素の諸性質の検討、他の酵素との性質の違いなども検討した。精製酵素のN末端アミノ酸配列解析について外注している。その結果を論文に加筆して投稿を準備している。 分子内ケトンを持つ酸化糖として、蔗糖の酸化によるカルボニル酸化糖の生成もほぼ検討を終えているが、反応液中に残存している未反応基質と生成されたカルボニル蔗糖との分離が、本研究の問題点として残されたが、解決に深刻な技術的な困難はない。 上記区分に記載の通り、研究は当初の計画以上に進展して、平成27年末までにほぼ終了した。そこで、更なる新規な分子内ケトンを有する酸化糖の開発にも着手した。ジオキシアセトンの酸化経路を発見して、最終的に分子内ケトンをもつ最小分子に相当するヒドロキシピルビン酸の生成を確認した。ヒドロキシピルビン酸はアミノ基転移反応と共役させると、L-セリンの生成へと導くことが可能になる。L-セリンが容易に製造できるようになると、L-トリプトファンやL-シスタチオニンの合成が容易になる。
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今後の研究の推進方策 |
ヒドロキシピルビン酸の製造法の確立を行い、従来リン酸エステルを必要としたL-セリン合成経路に、リン酸エステル無関与の代謝系を導入することで、新規な酸化発酵の応用面を開拓する。 約20種類のアミノ酸は発酵法によって製造されているが、唯一L-セリンは発酵法によって生産量を高めることができないアミノ酸として知られている。現在では、グリシン開裂反応とセリンヒドロキシメチル転移反応を組み合わせた方法が推奨されている。本研究で製造されるヒドロキシピルビン酸をアミノ化する方法は誰も研究していないので、以下の方法について試験する価値はある。(1)グリセリン ⇒ ジオキシアセトン ⇒ ヒドロキシ-2-ケトプロピオンアルデヒド ⇒ ヒドロキシピルビン酸 ⇒ セリン。(2)グリセリン ⇒ グリセリン酸 ⇒ ヒドロキシピルビン酸 ⇒ セリン。両法ともリン酸エステルを含む代謝系を経由しない点で特徴的であり、酢酸菌による酸化発酵の典型例と言える。これらの方法と、生理学的セリン経路(3-P-グリセリン酸 ⇒ P-ヒドロキシピルビン酸 ⇒ P-セリン ⇒ セリン)と比較して、セリン収量が圧倒的であることを示すことができる。 蔗糖の酸化によって生成する未知の分子内ケトンを持つ酸化糖についても概要を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
外注しないかぎり本学にあっては結果を得ることができない、N末端アミノ酸配列解析(試料の態様によって異なるが、1試料あたり8-10万円と見積もられる)への支出が、酵素の精製が予定よりも遅れたために次年度使用額となってしまった。これに伴って、論文の発表掲載に必要な費用も次年度使用額となったのが主たる理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
上記研究進捗状況に記載の通り、直近の論文の投稿を準備中であり、N末端アミノ酸配列解析の結果もすでに届けられている。請求書など支払い手続き書類の到着をまって、事務担当者に支払いをお願いする。論文原稿中に空欄としていたN末端アミノ酸配列解析の結果を充当して投稿準備を整える。掲載発表を待って必要な支払い手続きを行う。すべて、上記の理由をそのまま次年度へ並行移動させることとなる。
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