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2014 年度 実施状況報告書

還元的モノづくりを指向する酢酸菌の遺伝子工学:細胞内ニコチンアミド系補酵素の制御

研究課題

研究課題/領域番号 26450095
研究機関山口大学

研究代表者

藥師 寿治  山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30324388)

研究分担者 松下 一信  山口大学, 農学部, 教授 (50107736)
研究期間 (年度) 2014-04-01 – 2017-03-31
キーワード酢酸菌 / 物質生産 / 還元反応 / NADPH / シキミ酸 / トランスヒドロゲナーゼ / 糖代謝
研究実績の概要

酢酸菌はソルビトールからのソルボース発酵などのように,そのユニークな酸化的物質変換能が利用され,また研究されてきた。本研究では,逆転の発想ともいえる「酢酸菌による還元的物質生産」を行おうとするものである。
Gluconobacter属酢酸菌は,TCAサイクルと解糖系(EMP)が不完全で,糖代謝をペントースリン酸経路に依存し,アセチルCoAへの代謝量が著しく低いと考えられている。また,細胞膜のNADH酸化系呼吸鎖の活性は強いが,NADPH酸化活性は検出できないほど低い。このことは,細胞内のNADPHレベルが高いことを期待させるが,実際の測定結果によれば,NAD(H)の方がNADP(H)よりも多く,両者とも酸化型としての存在比が高い。本研究ではグルコースによって細胞内NADPHレベルを上昇させることで還元的物質生産を促すことを目的とする。
平成26年度は,G. oxydans NBRC3293株を用いて,遺伝子工学的に,mGDH 遺伝子(gdhM)の破壊を行った。いくつかのG. oxydans 株で遺伝子破壊を試みたが,この株が比較的スムースに破壊株を構築することができた。ΔgdhM株は,既報の通り,グルコースの酸化的物質変換が消失するが,物質代謝は増強し,最終産物である酢酸の生産量が増大した。細胞内の糖代謝酵素のうち,NADPH産生に関係するグルコース脱水素酵素(GDH),グルコース6リン酸脱水素酵素(G6PDH),アルデヒド脱水素酵素(ALDH)の活性を調べたところ,破壊株のALDH活性が親株の約2倍程度増大しており,G6PDHは不変,GDHは破壊株の方がやや低い傾向にあった。また,G. oxydans 621H株を用いてトランスヒドロゲナーゼ活性の測定を試みたが,現在のところ検出できていない。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

gdhM遺伝子破壊株を構築することができた。この株の作製についてはすでに報告があるが,私たちの研究室で,手法を整備する意味でも実施できたことは大きい。今後,多重遺伝子破壊を行う必要があるが,今回の手法・菌株で構築の目処がついた。
gdhM遺伝子破壊株の細胞内NAD(P)代謝はよく分かっていない。今回の解析で,G. oxydans野生株はほとんどグルコース代謝をしないが,高い酵素活性を維持していることが分かった。一方,作製したgdhM遺伝子変異株はグルコースの細胞内代謝が活発になっても,最終段階のALDH活性が増強するだけで,上流に位置する酵素活性は特に変動しない。このことから,遺伝子破壊株において細胞内NADPHレベルが上昇することが期待されるので,これから調べていく。
NADとNADPとの間で還元当量を交換するトランスヒドロゲナーゼの活性が検出できなかったことは,G. oxydans野生株において活性が低いことを示すが,実験系の問題の可能性もあるので,今後の解析が必要と考えている。

今後の研究の推進方策

平成27年度は,キナ酸からのシキミ酸生産試験を行う。G. oxydans NBRC3293株は,キナ酸の酸化系を持っているので,ΔgdhM株にデヒドロキナ酸脱水酵素とシキミ酸脱水素酵素を本菌に過剰発現させる。この過剰発現株で物質生産試験を行う。さらにNADPH供給量を上げるために,GDHなどを過剰発現させることも考えている。
シキミ酸生産実験については,酸素供給が一つの重要なポイントになると思われるので,培養工学的な戦略も含めて多次元的に挑戦する。つまり,培地組成,酸素供給(溶存酸素量),pH,細胞の状態(生育細胞あるいは休止菌体)などを検討する。「酢酸菌は高レベルの酸素が必須」といった従来のイメージに囚われずに解析を進めていく。
トランスヒドロゲナーゼの活性については,現在,過剰発現を試みており,酵素活性測定実験の検証もさることながら,過剰発現の影響も調べる予定である。
作製する菌株での関連酵素活性の測定はもちろんのこと,細胞内のNAD(P),NAD(P)Hレベルの測定を行う。
以上のように,平成27年度は,物質生産試験を中心に実施するが,酵素活性や補酵素の酸化還元レベルを測定し,より生化学的に本菌を理解することを目指す。

次年度使用額が生じた理由

購入を予定していた試薬について,購入を見合わせたため。なお,研究の遂行に影響は無かった。

次年度使用額の使用計画

前年度に購入を見合わせていた試薬を今年度に購入する。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2015 2014 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Overexpression of a type II 3-dehydroquinate dehydratase enhances the biotransformation of quinate to 3-dehydroshikimate in Gluconobacter oxydans2014

    • 著者名/発表者名
      Nishikura-Imamura S, Matsutani M, Insomphun C, Vangnai AS, Toyama H, Yakushi T, Abe T, Adachi O, Matsushita K.
    • 雑誌名

      Appl Microbiol Biotechnol

      巻: 98 ページ: 2955-2963

    • DOI

      doi: 10.1007/s00253-013-5439-z.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Replacement of a terminal cytochrome c oxidase by ubiquinol oxidase during the evolution of acetic acid bacteria2014

    • 著者名/発表者名
      Matsutani M, Fukushima K, Kayama C, Arimitsu M, Hirakawa H, Toyama H, Adachi O, Yakushi T, Matsushita K.
    • 雑誌名

      Biochim Biophys Acta

      巻: 1837 ページ: 1810-1820

    • DOI

      doi: 10.1016/j.bbabio.2014.05.355.

    • 査読あり
  • [学会発表] 酢酸菌Gluconobacter oxydansの膜結合型キナ酸脱水素酵素の高発現2015

    • 著者名/発表者名
      小松 和貴, 吉原 望, 今村 志穂美, 片岡 尚也, 薬師 寿治, 足立 収生, 松下 一信
    • 学会等名
      日本農芸化学会 2015年度大会
    • 発表場所
      岡山大学 津島キャンパス (岡山市)
    • 年月日
      2015-03-27
  • [学会発表] 2-ケト-D-グルコン酸脱水素酵素の異種発現によるGluconobacter japonicusでの効率的2,5-ジケト-D-グルコン酸生産2015

    • 著者名/発表者名
      片岡 尚也, 松谷 峰之介, 藥師 寿治, 松下 一信
    • 学会等名
      日本農芸化学会 2015年度大会
    • 発表場所
      岡山大学 津島キャンパス (岡山市)
    • 年月日
      2015-03-27
  • [備考] 山口大学農学部応用微生物学研究室

    • URL

      http://web.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~oubi/

URL: 

公開日: 2016-05-27  

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