研究課題/領域番号 |
26450098
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
九町 健一 鹿児島大学, 理工学域理学系, 准教授 (70404473)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 窒素固定 / 突然変異体 / 順遺伝学 / 共生 / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
窒素固定能を持つ生物種は、真正細菌と古細菌のいくつかの分類グループに散在する。放線菌に属する窒素固定細菌フランキアは、理解のよく進んでいるプロテオバクテリアやシアノバクテリアの窒素固定種とは異なる特徴を示す。例えば、窒素固定専用のベシクル細胞を分化する、窒素源の欠乏に応答して窒素固定遺伝子群の転写を活性化するしくみが他のバクテリアとは異なる、樹木(マメ科植物は含まない)の根に根粒を形成して共生する、などである。本研究はこれらの形質に関わる遺伝子を順遺伝学的に同定することを目的とし、昨年度に単離した窒素固定変異株の詳細な特徴付けと、原因遺伝子の推定を行った。 窒素固定変異株の一部はベシクル分化を行わず、それに必要な遺伝子が変異していると考えられた。ベシクル分化の変異株は、窒素固定遺伝子(nifE)の発現に異常を示したことから、nifE遺伝子の発現とベシクル分化の制御経路が重複している可能性が示唆された。窒素固定の変異株は宿主植物への共生能が低下していたとから窒素固定能と共生能を同時に支配する因子が存在する可能性がある。変異株とその復帰変異株のゲノム解析を行い、変異原因遺伝子の候補を見出した。 コロニー形態が異なる変異型に関しては、細胞表層多糖の解析を行い、2つの型(A型とS型)でその構造が異なることが示唆された。S型はA型に比べて、共生および非共生状態で窒素固定活性が低かったことから、細胞表層多糖の構造が窒素固定能に影響を与えることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度から引き続きニトロソグアニジンを用いて単離された6株の窒素固定変異株について表現型解析を行った。すべての株は窒素源を含まない最少培地(N-培地)で増殖せず、アセチレン還元活性を全く示さなかったことから、窒素固定能を失っていることを証明した。3株(N4H4、N6F4、N9D9)については、窒素固定専用細胞であるベシクルの分化に異常が見られた。窒素固定関連遺伝子(固定酵素関連のnifE、nifH、nifVと、ホパノイド合成関連のsdr、shc1)の発現をRT-PCRで調べたところ、上記3株はnifEの発現が見られなかった。このことからnifE遺伝子の発現とベシクル分化の制御経路が重複している可能性がある。これらの変異株は宿主植物モクマオウに対する根粒着生能が低下していた。特にN3H4株は全く根粒を着生しなかった。N3H4株の窒素固定能の復帰変異株(N3H4r4)は共生能も回復していた。よって、窒素固定能と共生能を同時に支配する因子が存在する可能性がある。すべての変異株とN3H4r4株のゲノム解析を行い、ゲノム中の突然変異をリストアップした。 γ線を用いて単離された変異株6種についても詳しい表現型解析を行った。まだすべての項目を完了していないが、全株が窒素固定能を失っていることは確認できた。 コロニー形態の変異株については、昨年度行った実験を繰り返してデータ数を増やした。これにより、両型は宿主植物ヨーロッパハンノキに対してほぼ同程度の根粒を着生するが、S型を接種した植物はA型を接種した植物よりも窒素固定活性が低いことがはっきりした。またS型はA型よりN-培地での増殖が遅かったことから、非共生状態でも窒素固定活性が低いと考えられた。細胞表層多糖を精製し、含まれる単糖の組成を調べたところ、2つの型の間で明瞭な違いが見られた。ゲノム解析を行い、原因変異の候補を大まかにリストアップした。
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今後の研究の推進方策 |
窒素固定変異株について:より多くの窒素固定変異株(主にγ線由来)について、グロース、窒素固定活性、ベシクル分化、窒素固定関連遺伝子の発現、共生能について調べる。遺伝子発現についてはリアルタイムPCRを用いてより定量的なデータを得る。特にnifEの発現とベシクル分化の関連に着目し、両者の異常が常に同時に起こるかを確認する。共生についてはより詳しい表現型解析(根粒の窒素固定活性、根毛の変形、植物側の共生遺伝子の発現)を行う。 ゲノム解析データをもとに、変異株N3H4が持つ変異のなかで復帰株N3H4r4が持たないものを選び出す。N3H4r4以外の復帰株(r5~r11)においてそれらの変異が野生型に戻っているかを調べることで、変異表現型の原因遺伝子を同定する。 ノザンブロットと5'RACE法により窒素固定オペロンの転写開始点を同定する。転写開始点上流配列をプローブとして用いたゲルシフト解析により、転写因子が結合するシス配列を同定する。 コロニー形態変異株ついて:細胞表層多糖をより詳しく分析し(脂肪酸組成や糖鎖長)、A型とS型との違いを明らかにする。異なるバッチで培養した細胞の表層多糖を解析し、再現性を確認する。薬剤(抗生物質や界面活性剤)に対する感受性を調べ、A型とS型とで表層多糖の構造が異なることを生理学的な側面からも確認する。両型により形成された根粒の内部構造(感染細胞の頻度、ベシクル分化の程度)を観察する。A型とS型のゲノム解析を3株ずつ行い、両者の表現型の違いの原因となる遺伝子を推定する。
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