前年度までの解析から、ステアリルアルコールによるリパーゼ生産誘導時に発現量が増加するアルコール脱水素酵素(AdhA)を同定していた。そこで今年度は、その酵素をコードする遺伝子の破壊株を作製し、表現型を解析した。その結果adhA欠損株では、リパーゼの生産量が低下することを見出した。adhA欠損株では野生株と比較して培養上清に観察されるステアリルアルコール由来の白濁の解消が遅れることから、ステアリルアルコールの分解能が低下していると考えられる。この結果は、ステアリルアルコールの細胞内における代謝がリパーゼ生産誘導に重要であることを示唆するものである。一方、培地へのステアリルアルコール添加時には細胞の形態が変化することを電子顕微鏡観察から見出していた。これを受けて膜の脂肪酸組成変化を解析した結果、リパーゼ生産誘導時には炭素数16、17の脂肪酸含有量が増加する一方で、炭素数18の脂肪酸含有量が低下することが判明した。リパーゼ生産誘導効率が著しく低下するeliA欠損株では膜脂肪酸組成変動が観察されなかったことからも、リパーゼ生産と細胞膜の状態には密接な関係があると考えられる。 上記の成果に加え、研究期間全体ではリパーゼ遺伝子(lipA)の転写促進因子(LipR80-4)の同定に成功し、lipA上流域におけるLipR80-4の結合位置を決定した。また、LipR80-4と共に二成分制御系を構成するLipQ80-4において、LipR80-4の活性化(リン酸化)に必要であると予想されるAsp残基を同定した。さらに、分泌、膜、細胞質タンパク質のプロテオーム解析から、ステアリルアルコールによって発現誘導されるタンパク質群を複数見出し、これらのタンパク質の発現誘導にもEliAが必須であることを証明した。
|