研究課題/領域番号 |
26450104
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
浅沼 成人 明治大学, 農学部, 准教授 (50366902)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / プロバイオティクス / スフィンゴ脂質 / セラミド / 炎症性腸疾患 |
研究実績の概要 |
セラミドは種々の効果をもつ生理活性物質であるが希少なため、その前駆体であるグルコシルセラミド(GluCer) が一般的には用いられている。しかし、GluCerは摂取しても腸管から吸収されにくいし、また皮膚からの透過性も低いので化粧品やアトピー性皮膚炎の治療には効果が低い。それ故、GluCerからセラミドを生成する腸内細菌を見つけ出し、その菌を用いてセラミド生成を増加させ、種々の病気の予防・治療に役立てることを目標とした研究を行った。初年度としては、GluCer水解能の高い腸内細菌の探索を行い、新規菌の単離を試みた。種々の動物から糞便を採取し、基礎液体培地に種々の寒天を加えた培地で培養し、形成されたコロニーを回収した。各コロニーをGluCerを含む培地で培養し、培養後のGluCer残存量とセラミド生成量を測定した。約6,000個のコロニー(菌株)を供試したところ、一つの菌株でGluCer水解能が見られた。この菌株は、イヌの糞便由来であった。本単離菌はGluCerを分解してセラミドを生成するが、セラミドを分解することなく蓄積していくことから、本菌はグルコシルセラミダーゼ(GCase)は持つが、セラミダーゼは持たないものと推測された。単離菌の培養液を培養上清と菌体画分に分画し、GCase活性を比較したところ、90 %近くの活性が培養上清から検出されたことから、本菌のGCaseは菌体外に分泌される酵素と思われた。また、本菌の菌体タンパク量あたりのGCase比活性は、以前に報告したBlautia glucerasei HFTH-1のものの倍近くあり、よりGluCer水解能が高い菌であると思われた。現在は、GCaseをコードする遺伝子を明らかにするために、酵素の精製を行っており、硫安沈殿画分での酵素の安定性を確認し、イオン交換クロマトとゲル濾過により、酵素の比活性を上げている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究テーマの最初の課題である” GluCer水解活性の高い新規の腸内細菌の探索と単離”については、目的に合うような菌の単離に目処が立ち、初年度の成果としてはまずまずと思われる。菌の探索法として、適切なスクリーニング法が見当たらなかったので、全てのコロニーを供試する必要があった。また、GluCerの消費量の測定も非常に手間の掛るものであり、菌の能力検定の作業効率も悪かったと思われる。どちらも容易な方法ではなかったが、GluCer水解能を持つ菌を新たに入手できたことは非常に価値のあることだと思われる。これまではGluCer水解能についての情報がなかったので、オミックスによる網羅的な情報解析では不透明な部分に区分されていたが、今後に本単離菌を用いた解析により、その情報を提供することができれば、より多くのことの解明に役立つと思われる。今後は、菌の単一性の確認をもう数回繰り返し、確実性を高めることを考えている。 現在は次の研究ステージである、”GluCer水解酵素の精製と遺伝子のクローニング”の項目を検討しており、本酵素が菌対外に分泌される酵素であることを明らかにし、2段階のカラムクロマトを行うことで、比活性を格段と増加させることを示した。今後の進展が期待される結果が得られているが、酵素の精製も非常に手間の掛る作業であり、一筋縄では行かないことが予想される。 本年度は、GluCer水解菌の単離作業と単離菌のGCaseの特性の解析といった微生物学的な側面からの解析アプローチで終わってしまい、本菌を用いたセラミド製造には手がまわらなかった。この点は、来年度以降にペースアップして取り組むつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
実験1のテーマでは、既に分離したGluCer水解菌の培養液からのコロニー分離を数回繰り返し、菌の単一性を高める。その後に、分離された菌から遺伝子を抽出する。16SrRNA遺伝子をPCRにより増幅し、得られたPCR産物の塩基配列を決定し、菌種の同定と系統解析を実施する。また、GluCer水解菌の単離については、糞の起源を変更しながら、継続して進める予定である。 実験2のテーマを次年度は精力的に進めることを考えている。先ずは、先の単離菌がどのような培養条件で増殖するかを検討する。これはどのような条件下で、本菌がセラミドを生成し易いかにも関係し、セラミドの大量製造法の確立に役立つと思われる。また、単離菌を用いてGluCerからセラミドを生成させる場合には、培養液からセラミドを抽出する必要があり、その効率や純度についても考慮する必要がある。そこで、抽出の際には従来の有機溶媒抽出に加え、弱アルカリ加水分解法やHPLCによる分離を行うことを検討する予定である。 実験3のテーマは、動物試験を用いた食餌性セラミド(単離菌由来)の薬用効果の検証が主となるので、来年度は上記のように検討した方法を用いてセラミドを大量に集めることを行い、再来年度に検証する予定である。(ただし、条件検討等のプレ試験は行う予定である) 実験4のテーマでは、引き続きカラムクロマト法によるGCaseの精製を試みる。二次元電気泳動等によりある程度の単一性が確認されたら、タンデムマス(MS/MS)を用い、精製したGCaseタンパクのペプチド断片の情報(分子量やアミノ酸配列)を得て、他の酵素タンパクとの類似性を調べる。また、得られたアミノ酸配列を基に遺伝子プローブを作成する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室の移動等で、やむを得ず実験を中断しなくてはならない期間があり、実験計画が後にずれ込んだため、次年度に予算を回すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度に実施できなかった(計画に遅れた)部分は、次年度のエフォート部分を増やして実施する予定であり、その実施のために必要な経費を使用する予定である。
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