セラミドは種々の効果をもつ生理活性物質であるが希少なため、その前駆体であるグルコシルセラミド(GluCer) が一般的には用いられている。しかし、GluCerは摂取しても腸管から吸収されにくいし、また皮膚からの透過性も低いので化粧品やアトピー性皮膚炎の治療には効果が低い。それ故、GluCerからセラミドを生成する腸内細菌を見つけ出し、その菌を用いてセラミド生成を増加させ、種々の病気の予防・治療に役立てることを目標とした研究を行った。これまでの期間で、GluCer水解能の高い新規菌を単離し、その特性を明らかにした。また、その新規菌を用いた植物性セラミドの生成法を確立した。今年度は、回収したセラミドの生理機能を動物試験で検証し、食事性GluCerの効果と比較した。薬剤により実験的大腸炎を誘発したマウスにGluCerを経口投与したところ、血便や軟便の程度が改善される傾向は見られたが、その効果はわずかなものであった。しかし、セラミドを投与した場合には、改善効果がより明確となり、炎症の重篤化による体重の低下も軽減された。組織切片の観察においても、セラミドを投与した場合の方がGluCer投与時よりも、炎症の程度が低下することが確認された。また、炎症の重篤化に伴い増加する血中イムノグロブリンの量や好中球の走化性も、セラミドの投与により低下した。従って、GluCerよりもセラミドを給与した場合の方が、腸管からの吸収効率が良く、生理効果が増加したと考えられる。また、新規GluCer水解菌を粉末化し、GluCerと同時に給与した場合にも、セラミド給与時と同様な炎症抑制効果が見られた。それ故、この新規菌の腸管内の存在数が増えるように工夫することで(例えばプロバイオティクス利用等)、食事性GluCerの利用量が増加し、その生理効果が更に高くなると考えられた。
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