研究課題/領域番号 |
26450113
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪市立工業研究所 |
研究代表者 |
永尾 寿浩 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 生物・生活材料研究部, 研究室長 (30416309)
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研究分担者 |
田中 重光 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, 生物・生活材料研究部, 研究員 (20509822)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Staphylococcus aureus / S. epidermidis / アトピー性皮膚炎 / パルミトオレイン酸 / 皮脂 / 抗菌活性 / 菌叢 / スキンマイクロバイオーム |
研究実績の概要 |
近年、アトピー性皮膚炎(Atopic dermatitis, AD)の対策が急務である。ヒトの皮膚には多種類の微生物が存在し、Staphylococcus aureus (Au)とS. epidermidis (Ep)に関する研究が盛んである。健常者の皮膚ではAuよりもEpが優勢に存在するが、AD患者の炎症部ではEpよりもAuが優勢に存在し、全菌数に占めるAuの比率が平均65%である(健常者;約1%)。このAuがADの炎症悪化に関与している。一方、Epは健常者の皮膚におけるAuの生育を阻害している。 そこで、皮膚の菌叢を好ましい状態に保つ、つまりAuを抑制しEpを抑制しない素材の研究を目的とした。 本年度は、ヒトの皮脂中に存在する6c-C16:1(サピエン酸)の異性体で、限定的な植物油に存在する9c-C16:1(パルミトオレイン酸)の、AuとEpに対する抗菌活性に及ぼす培地の初発pHの影響を調べた。pHを5.0~8.5の範囲とし、微量液体希釈法による最少生育阻止濃度を測定した結果、pH依存性が認められ、Auに対する抗菌活性が最も強いpHは6.0、Epに対するそれは7.0であり、中~アルカリ性領域では両菌株に対する抗菌活性が同等であったが、弱酸性領域では選択的抗菌活性を示す、つまりAuを抑制しEpを抑制しないことが分かった。これらの結果より、ADと健常者の皮膚表層pHと6c-C16:1含量、ADでAuが増える現象との相関関係が説明できる。 また、AuとEpを混ぜたpH6.0の培地に9c-C16:1を添加すると、Epだけが生育し、目的とする素材として有用であることも分かった。また、近畿大学農学部岸本憲明教授との共同研究の結果、9c-C16:1を暴露したAuは、低分子のタンパクを培地に放出しており、これが抗菌活性に寄与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初の計画では、微生物法で作成した7c-C16:1で検討を行う予定であったが、それの精製に時間がかかること、以前の研究で9c-C16:1と7c-C16:1の抗菌活性はほぼ同等であったことから、予定を変更して、試薬として調達しやすい9c-C16:1で検討をおこなった。その結果、Auを抑制しEpを抑制しない初発培地pHが分かった。このpHで、微生物法で作成した7c-C16:1の活性を測定したところ、目的通りの結果が得られた。その他予定していた実験も概ね達成したことから、本年度の計画は概ね順調に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの抗菌活性の測定法は、液体培地を用いた最少生育阻止濃度である。本研究の 最終目標は、複数の微生物が混在する皮膚へ塗布する医薬・化粧品素材の基盤的な研究であり、前記の評価法は実情に合致しない。そこで27年度は、当初の計画の一部を変更し、皮膚へのクリームの塗布のモデル系として、寒天培地の表面にAuとEpを塗布し、さらにC16:1を混ぜた試料を塗布し、どちらの微生物が優先化するかを調べるという、これまでには無い全く新しい抗菌活性の評価法についての基盤研究を行う。 当初の27年度の予定では、C16:1の抗菌活性をC18:1が妨害していることが示唆されるため、C16:1の抗菌活性に及ぼす、C18:1などの複数の脂肪酸の相互作用について調べる予定であったが、今後の実験で最もクリティカルであるC18:1だけに絞って、C16:1とC18:1の相互作用について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度の研究結果を27年5月のアメリカ油化学会(オーランド)で発表することになったこと、27年度の研究に用いる卵黄添加マンニット食塩寒天培地などの試薬代に経費を要することが推定されることなどから、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
27年5月のアメリカ油化学会(オーランド)での発表、卵黄添加マンニット食塩寒天培地などの試薬代として使用
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