研究実績の概要 |
本研究は,臓器障害の新規バイオマーカーとして近年注目されている可溶型(プロ)レニン受容体(可溶型PRR)について,その産生機構の解明を目的として行われた。可溶型PRRは,膜結合型(全長型)PRRが細胞内プロテアーゼ(プロセシング酵素)によって特定部位で切断されて生成する。可溶型PRRを産生するプロセシング酵素として,Cousinら(2009年)によってfurin,Yoshikawaら(2011年)によってADAM19という相容れない報告がなされていた。 研究代表者は本研究の成果に基づき,第3のプロテアーゼsite-1 proteaseとfurinによる段階的プロセシングという新しい可溶型PRR産生機構モデルを提唱する論文を発表した(Nakagawa T, et al. 2017)。可溶型PRRが「どのように」作られるかという問題に対して一定の結論を得た。 本年度は,可溶型PRR産生が「いつ(=どのような時に/どのような条件で)」起こるのかを調べた。PRRと同様に,主として小胞体に局在し,ゴルジ体でsite-1 proteaseによって切断される膜タンパク質として,小胞体ストレスセンサータンパク質ATF6がある。ATF6の切断は小胞体ストレスによって引き起こされる。そこで,PRRも小胞体ストレス下で切断されると予想し,その可能性を検証した。ヒト子宮頸がん由来HeLa細胞を,小胞体ストレス誘導剤として知られるジチオスレイトール,タプシガルギン,ツニカマイシン,2-デオキシグルコースで処理した結果,ジチオスレイトールと2-デオキシグルコースで可溶型PRRが増加したが,タプシガルギンとツニカマイシンによる効果は見られなかった。このことから,可溶型PRR産生は小胞体ストレスに共通して起きるものではないが,還元的条件およびグルコース欠乏によって可溶型PRR産生が増加する可能性が示唆された。可溶型PRRと病態との関連性を明らかにする上で,重要な知見だと考えられる。
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