MEROPSデータベースのfamily S12に属するペプチダーゼは、主にD-アミノ酸を認識し、いくつかの酵素からは加水分解の副反応としてアミノリシスによるペプチド結合形成反応も報告されている。我々が見出したD体特異的アミノ酸アミド加水分解酵素(DAH)もfamily S12に属しており、高いペプチド結合形成能を有する。これまでの本補助金研究により、本酵素の立体構造が解明され、ペプチド結合形成能の構造的要因が考察されたと共に、変異により特異性が変化した酵素が取得された。本補助金研究の最終年度(2016年度)では、多重変異による酵素の基質認識のデザインを試みたと共に、様々な短鎖ペプチドの酵素合成ライブラリーを構築して新奇機能物質探索研究に着手した。 ・基質ポケットを埋めることによる小さなアミノ酸への特異性改変:ポケットを構成する小さな残基に焦点を当て、構造予測ソフトを駆使して基質ポケットが埋められたDAHをデザインした。続いてデザインされたDAHを構築し、特異性の変化を評価したところ、アミノ酸アミドには認識が弱くなったが、アミノ酸エステルに対して活性を維持していた。一方で小さなアミノ酸に対する反応性に大きな変化は見られなかった。 ・基質ポケットの最大限の拡大:ペプチドライゲーションを可能にする酵素の取得を狙い、最大限基質ポケットを拡大した変異酵素をデザインし、機能を評価した。可溶性の酵素は取得されたが活性が完全に失われ、CDスペクトルから折りたたみに問題があることが確認された。 ・短鎖ペプチドの酵素合成ライブラリー構築と機能物質探索:基質の組合せが異なる酵素反応液を2000種作成し、これをライブラリーとして培養細胞による抗体医薬生産への影響を評価した。その結果、Tyrが入った酵素反応液を培地に少量添加することで、約1.4倍の培養細胞による抗体生産の向上が確認された。
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