研究課題/領域番号 |
26450127
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
谷 元洋 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (20452740)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 複合スフィンゴ脂質 / セラミド / 出芽酵母 |
研究実績の概要 |
本申請研究は、出芽酵母における複合スフィンゴ脂質の生物機能を、その構造多様性の観点から明らかにすることを目標としている。平成26年度は、以下の二つの課題について研究を行った。 (1) これまでの研究代表者らの研究によって、複合スフィンゴ脂質MIPCの生合成酵素遺伝子とマンナン型糖鎖合成酵素遺伝子 (MNN2)の二重破壊によって酵母が致死となることを見出していた。本研究では、この致死のメカニズムを詳細に解析するため、MNN2発現を部分的に抑制したMIPC生合成酵素欠損株を用いた。その結果、この二重変異株は、SDSや細胞壁溶解酵素のザイモリエースに対して高感受性となり、細胞強度が低下していることが判明した。このような表現型はMIPC合成酵素の単独欠損株でも弱いながら観察された。このことより、特定の構造を持った複合スフィンゴ脂質が細胞強度維持に重要であることが示された。 (2) 植物病原菌毒素であるSyringomycin Eは、細胞表面の複合スフィンゴ脂質に結合することで毒性を発揮する。本研究では、スフィンゴ脂質生合成の最初のステップを担うセリンパルミトイルトランスフェラーゼの負の調節因子であるOrm1, Orm2の欠損株が、Syringomycin Eに抵抗性を示すことを見出した。一方で、Orm2の過剰発現によってスフィンゴ脂質の生合成を部分的に低下させると、Syringomycin Eに高感受性となることがわかった。これらの結果より、細胞のスフィンゴ脂質の総量が本毒素の毒性の強さを左右する重要なファクターであることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究の目的の一つは、複合スフィンゴ脂質の構造機能相関を明らかにすることである。本年度の研究によって、複合スフィンゴ脂質MIPCが細胞強度の維持に関与することを新たに見出した。また、スフィンゴ脂質の代謝制御の生理学的意義を明らかにするという目的においては、植物病原菌毒素Syringomycin Eの毒性の強さが、スフィンゴ脂質の総量の変化によって左右することを新たに明らかにすることができた。以上にように、ほぼ当初の計画通りに研究が進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
MIPCがどのようにして細胞強度維持に関与するのか、その分子メカニズムの解明が今後の課題である。また本申請研究のもう一つの大きな目標であるセラミドの作用メカニズムの解明に関しては、現在セラミド代謝異常に抵抗性を示す酵母変異株を複数単離しており、これらの株の詳細な解析も今後の重要な課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の研究計画として、特定の構造を持った複合スフィンゴ脂質の生理機能を更に掘り下げて解析を進めると共に、セラミドが誘導する細胞死の分子メカニズムの解明についても本格的に着手していく予定である。これらの研究を円滑に進めるためには平成27年度分として計上していた研究費では不足する可能性があったので、平成26年度の使用予定の研究の一部を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度に展開した複合スフィンゴ脂質の機能解析の結果より、個々の複合スフィンゴ脂質の生物機能を明らかにすることだけに着目するのではなく、その代謝制御機構を密接に絡めた研究展開を行う必要性が出て来た。そのため27年度以降の経費は、主に脂質の定量解析に必要なHPLC、TLC、ラジオアイソトープ関連の消耗品を中心として、一般的な生化学、分子生物学実験の消耗品にあてる。また研究計画の拡大に伴い必要となってくる小額の研究機器の購入を計画している。
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