研究課題
本申請研究は、出芽酵母における複合スフィンゴ脂質の生物機能を、その構造多様性の観点から明らかにすることを目標としている。平成27年度は、以下の二つの課題について研究を行った。(1) これまでの研究代表者らの研究によって、液胞の酸性pH維持に関与する液胞プロトンATPse (V-ATPase)が欠損した酵母は、複合スフィンゴ脂質生合成損傷が誘導する生育阻害に対して高感受性を示すことを見出していた。本研究では、V-ATPase欠損株において複合スフィンゴ脂質の組成パターンが顕著に変化していることを見出した。具体的な変化として、① IPCの減少とMIPC, M(IP)2Cの増大、② セラミド部分の水酸化の減少、が観察された。興味深いことに、MIPC合成が欠損すると、V-ATPase欠損株の中性条件における生育低下が顕著に促進されることが判明した。さらに、セラミドの水酸化酵素をV-ATPase欠損株に過剰発現させても同様の効果が観察された。これらの結果は、V-ATPase欠損株の複合スフィンゴ脂質代謝変動は、液胞のpHホメオスタシス破綻に対して細胞を保護するための応答機構であることを示唆している。(2) エンドサイトーシスにおける小胞の陥入に関与するRvs167, Rvs161の欠損株においてスフィンゴ脂質総量が低下していることを新たに見出した。この低下はスフィンゴ脂質生合成の律速酵素であるセリンパルミトル転移酵素の負の調節因子であるOrm2の発現増大によって生じていることがわかった。Rvs167欠損株においてスフィンゴ脂質生合成を強制的に促進させると生育阻害が誘発された。一方で、スフィンゴ脂質生合成をさらに低下させるとRVS167欠損株の異常な表現型が緩和された。このことより、Rvs167欠損株におけるスフィンゴ脂質生合成調節の生理的重要性が新たに示された。
2: おおむね順調に進展している
本申請研究の目的のは、複合スフィンゴ脂質の構造機能相関と代謝制御の生理学的意義を明らかにすることである。本年度の研究によって、細胞内pHの調節能異常やエンドサイトーシスの機能異常下において、酵母は複合スフィンゴ脂質の量や組成パターンを調節することによって、これらの異常に対する適応を行っている可能性を示すことができた。以上のように、ほぼ当初の計画通りに研究が進捗していると判断した。
複合スフィンゴ脂質の構造機能相関を解析していく中で、MIPCという複合スフィンゴ脂質が様々な環境適応に関与している可能性が浮かび上がってきた。今後は、MIPCの生理機能の分子メカニズムの解明を積極的に行っていく必要がある。
平成28年度の研究計画として、複合スフィンゴ脂質MIPCの生理機能発揮の分子メカニズムをさらに追求すると共に、スフィンゴ脂質代謝異常による転写応答系に関する解析についても本格的に着手する予定である。これらの研究を円滑に進めるために平成28年度のみの研究費では不足する可能性があり、研究費の一部を繰り越した。
平成28年度の経費は、主に脂質の定量解析に必要なHPLC, TLC, ラジオアイソトープ関連の消耗品を中心として、生化学、分子生物学実験の消耗品にあてる。また研究計画の拡大に伴い必要となる汎用理化学機器の購入を計画している。さらに、DNAマイクロアレイ、電子顕微鏡等の外部委託が必要な解析の費用にもあてる。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (5件)
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