研究実績の概要 |
イネにおける唯一のフラボノイド型抗菌性化合物であるサクラネチンは、イモチ菌の感染や紫外線照射など様々なストレスによって生産誘導を受ける。その誘導はイネの代表的な病害抵抗性反応のひとつとして知られている。本研究では、植物の病傷害応答性に関わる植物ホルモンのジャスモン酸(JA)に強い依存性を示すイネのサクラネチン合成酵素naringenin 7-o-methyltransferase遺伝子OsNOMTの転写誘導機構の解明を進めた。まず、JAシグナル伝達経路において中心的な働きを持つbHLH型転写因子OsMYC2が、OsNOMTのプロモーターの活性化を引き起こすことを示し、osmyc2-RNAi株を用いた解析から、JAシグナルにより誘導されるOsNOMTの発現とサクラネチンの生産が、OsMYC2に依存することを明らかにした。次に、OsMYC2のホモログであるOsMYL1, OsMYL2の2つのタンパク質がOsMYC2と相互作用することを示し、また、OsNOMTのプロモーターに対するOsMYC2の転写活性化能は、OsMYL1, OsMYL2の相互作用によって著しく増強されることを明らかにした。最終年度には、OsNOMTのプロモーター領域を用いた酵母ワンハイブリッドスクリーニングにより新たな制御因子の取得を進め、新たに鉄欠乏応答性転写因子OsIDEF2がOsMYC2と協調的に作用しOsNOMTプロモーターの活性化を促す事を見出した。さらにosmyc2-RNAi株のJA処理時の転写変動をRNA-sequenceにより調べ、サクラネチン生産に必要なナリンゲニン生合成経路の遺伝子群やテルペノイド生合成に関わる遺伝子群などが、OsMYC2の制御下にあることも明らかにした。本研究により、JA誘導性のサクラネチン生産における、OsMYC2を介した転写制御の分子機構の解明が大きく進展した。
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