20-ヒドロキシエクジソン(20HE)は昆虫が産生する脱皮変態を司るステロイドホルモンであるが、植物にも広く存在する。個々の生物が如何にして生合成能を獲得したのか興味が持たれる。昆虫における20HEの生合成遺伝子は多数明らかにされているが、植物においては不明で昆虫の20HE生合成遺伝子と相同性の高い配列も見出されていない。20HE生合成遺伝子を個々の植物が獲得したのか、共通の祖先とする遺伝子が広く分布した結果なのか調べるため、被子植物と裸子植物における20HEの生合成経路やその遺伝子を明らかにし、それらの比較から植物の生合成能獲得の経緯を明らかにしたいと考えた。これまでに被子植物シソ科アジュガの毛状根において、昆虫の場合とは異なり3β-hydroxy-5β-cholestan-6-one(5β-ketone)が20HEの生合成中間体であることを明らかにしている。平成26年度においては、アジュガ毛状根のESTデータベースを作製し、水酸化に関わると考えられるP450遺伝子を複数抽出し、酵母や昆虫細胞を用いた異種発現解析により5β-ketoneのC-22に水酸化する酵素遺伝子を見出した。さらに22位に水酸基を有する5β-ketoneの重水素標識体を合成し、アジュガ毛状根に投与したところ、この化合物が20HEに変換されることが明らかになった。以上の結果、植物から初めて20HE生合成に関与する22位水酸化酵素遺伝子CYP71D443を同定することができた。また裸子植物マキ科イヌマキのカルスを作製し抽出物を分析したところ、植物体とは異なりカルスから20HEは検出されなかった。この結果より、カルスにおいては20HE生合成遺伝子が発現していないことが示唆され、植物体とカルスそれぞれからESTライブラリーを構築し、その差異からP450等の酸化に関わる酵素遺伝子の選抜が可能となると考えられる。
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