研究課題/領域番号 |
26450139
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
安部 真人 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (30543425)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | カルジオリピン / tafazzin / ミトコンドリア / リン脂質 / トランスアシラーゼ |
研究実績の概要 |
ミトコンドリア内膜に局在するリン脂質カルジオリピンは、種々の膜タンパク質やシグナル分子との相互作用を有している。カルジオリピンは、2つのリン酸部と3つのグリセロール骨格から成る極性頭部と、4本の脂肪鎖でできた疎水性部を持つ。特に、脂肪鎖の組成については生物種や組織によって特異性が見られているが、どのようにして特異的な生合成が進行するのかはわかっていない。カルジオリピンの生合成系には、炭素骨格の形成を行う経路と、その後に脂肪酸部の組み換え反応を繰り返して特異性を獲得すると考えられるリモデリング経路が存在する。リモデリング経路では、カルジオリピンの脂肪酸部の加水分解によるリゾカルジオリピンの生成と、リゾカルジオリピンを基質とした再アシル化反応が含まれている。このリモデリングの鍵となる酵素にtafazzinがある。Tafazzinは、トランスアシラーゼ活性を有し、ミトコンドリア膜の主成分であるホスファチジルコリンのアシル鎖をカルジオリピンの前駆体であるリゾカルジオリピンに組み換える活性があると考えられている。しかし、これまでにトランスアシラーゼ活性における脂肪酸部の基質特異性はみられていない。このことから、依然として、カルジオリピンの脂肪酸部の特異性獲得のメカニズムは謎に包まれている。 そこで、本研究では、有機化学的手法を用いて種々の脂肪酸部を有するカルジオリピンおよびリゾカルジオリピンのライブラリーを構築することとした。さらに、それらについてマイクログラムレベルでの定量系を確立し、酵素反応のモニタリングを可能とした。そのうえで、ホスファチジルコリンとリゾカルジオリピンから成るリポソームを作成して、精製tafazzinを用いた人工的なリモデリング系の観察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでにカルジオリピン、およびリゾカルジオリピンの化学合成を達成して計画以上のライブラリーを構築することができた。さらに、tafazzinのリモデリング反応のアシルドナーであるホスファチジルコリンについても合成を進めている。 一方で、カルジオリピンおよびリゾカルジオリピンのマイクログラムレベルでの定量系についても確立を終えている。UV吸収が乏しい脂肪酸鎖を有する場合においても好感度かつ定量性を確保できる蒸発光散乱検出を用いることでHPLC分離後にそれぞれの分子種において区別して定量することができるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画を前倒しして精製tafazzinの基質特異性について考察を進めている。当初の目的であったカルジオリピンの脂肪酸部の特異性の獲得について、tafazzinが有する基質特異性がどのように影響するのかを精査する。 今後の研究の方針として、第一に単一の脂肪酸組成のホスファチジルコリンとリゾカルジオリピンの組み合わせを比較する。その後に、任意の混合比率で種々のホスファチジルコリンおよびリゾカルジオリピンを用いることで優先的にリモデリングを受ける脂肪酸組成を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたカルジオリピンおよびリゾカルジオリピンの化学合成が首尾よく進行したために、合成試薬と合成溶媒の費用が抑えられた。 また、カルジオリピンおよびリゾカルジオリピンの定量系の確立に関しても効率よくカラム選定と機器の構成を選択できたために費用を抑えることができた。 計画をさらに充実してホスファチジルコリンの化学合成にも着手したものの、全体の費用として計画を下回る決算となった。
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次年度使用額の使用計画 |
現在前倒しして行っている精製tafazzinのリモデリング反応には高額な試薬を用いるケースが考えられるため、それらの準備に使用する。特に、tafazzinの精製に関連してはさまざまな手法が考えられるため、これらの検討に予算を充当する必要がある。 加えて、研究目的をさらに充実して検討するためにtafazzinのアシルドナーであるホスファチジルコリンの化学合成も進めているため、これらに対する費用もあらたに計上する予定である。
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