カルジオリピンは、ミトコンドリアに局在する陰性リン脂質であり種々の膜タンパク質や輸送担体の活性発現に必須である。カルジオリピンの生合成は一旦は飽和脂肪酸で構成されてミトコンドリア内膜のマトリックス側で完成する。その後、リモデリング系と呼ばれる機構によって不飽和度を獲得し、脂肪酸組成が揃ったものに組み換えられると考えられている。しかし、どのような作用によってカルジオリピンの脂肪酸組成が選択されているのかについては分かっていない。ミトコンドリア内膜に遍在するタファジンは、カルジオリピンの変異を特徴とするバース症候群の原因遺伝子から同定されたトランスアシラーゼである。近年、タファジンがカルジオリピンのリモデリングに関与することが明らかになった。そこで本研究では、タファジンのトランスアシル化反応における基質特異性を明らかにすることを目的とした。タファジンによる脂肪酸組換えはホスファチジルコリンをアシルドナー、リゾカルジオリピンをアシルアクセプターとして進行する。この反応を精密にモニターするために、ホスファチジルコリン、リゾカルジオリピン、カルジオリピンのそれぞれについて、種々の脂肪酸組成をもつ類縁体を合成した。そのうえで、各化合物の微量定量系をHPLC-ELSDを用いることで確立した。用意したホスファチジルコリンとリゾカルジオリピンを様々な組み合わせでリポソームを作成し、酵母由来の精製タファジンを用いたトランスアシル化反応に供した。各反応を比較した結果、酵母由来の精製タファジンにはC18:2やC18:2、C16:1のような不飽和脂肪酸がアシルドナーであるときに比べ、C16:0の不飽和脂肪酸を用いた場合のみ顕著に反応速度が低下することが初めて明らかになった。また、ホスファチジルコリンの2つの脂肪酸のうち、Sn-2位が主にアシルドナーとして機能することを初めて報告した。
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