研究実績の概要 |
①野生動物に対するオオカミ由来恐怖誘起物質(P-mix)の作用の確認。エゾシカに対するP-mixの効果についてさらに研究を進め、その科学的蓋然性や生態学、進化学的視点よりオオカミ由来恐怖誘起物質の学問的位置づけを行うと同時に、既知の異なる恐怖誘起物質との化学的、生理学的、行動学的相違や特徴をまとめ、総説を作成した。これによって、P-mixは主嗅球と副嗅球を刺激し、マウスとシカなど主の枠組みを超えて作用する新規のオオカミのカイロモンであることが国際的に認められることとなった。
②P-mix類縁体の恐怖誘発性構造活性相関の研究。構造活性相関の研究をさらに推し進め、いくつかの恐怖誘発行動活性のあるピラジン化合物を見出した。その構造的特徴は1)ピラジンに結合する官能基ははエチル基かメチル基であり、2)官能基の炭素原子の総数が4個の化合物であることが明らかになった。この中でも2,3-ジエチルピラジン(2,3-DEP)は最も効果の高い新規の恐怖誘起物質であることが示唆された。そこで現在、2,3-DEPの3位の官能基を別のものに置換し、効果の増大が見込めないかどうか検討を加えている(論文準備中)。
③P-mixの嗅覚中枢に対する作用。P-mix は主嗅球と副嗅球、のいずれをも刺激することにより恐怖誘発を引き起こすことが昨年までの研究で明らかになっている。そこで今回、主嗅球の受容器である嗅上皮、あるいは副嗅球の受容器である鋤鼻器官のいずれかを切除し、恐怖誘起作用の発生や恐怖誘起を引き起こす大脳経路などについて鋭意研究中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
27年度までに、P-mixはマウス以外にエゾシカにおいても詳細な結果を得ることが出来た。本研究は同一の カイロモン が異なる種の被食動物に効果を発揮したことを明らかにしており、学問的にも注目に値する内容であるとともに、自然保護への波及効果も期待できる。本内容はすでに論文として発表している(Osada K et al Front Behav Neurosci,8,276,1-7,2014) 。さらに、オオカミ尿より見出した新規カイロモンの科学的蓋然性や生態学、生理学的特徴をまとめて総説を発表し、オオカミ尿より見出した新規カイロモンの存在と学問的位置づけを世界に発信した(Osada K et al Front Neurosci, 9,363,1-11,2015). さらに、構造活性相関の研究も一層進捗し、P-mixやを超える恐怖誘起作用を持つピラジン誘導体(S-Pz)が見出されつつある(論文作成中)。またエゾシカ以外の動物としてクマネズミやドブネズミのモデルになり得るラットでの恐怖誘起作用も確認できた。
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