研究実績の概要 |
以前の研究でオオカミ尿中のアルキルピラジン類(P-mix)が新規カイロモンであることを明らかにした。28年度はこれらアルキルピラジンとマウスに対する恐怖行動について構造活性相関の解明に取り組んだ。17種類のアルキルピラジンが引き起こす4種類の恐怖行動(不動時間および忌避率の上昇、探索時間および行動量の減少)について検索し、多変量解析の結果、2,3-ジエチルピラジンを含む4種類の化合物が最も活性が強い独立したクラスターを形成することが明らかとなった。これらの化合物の官能基には1)メチル基かエチル基で構成され、2)総炭素数が3-4つからなるという共通の特徴があることが明らかになった(J Chem Ecol,2017)。さらにアルキル基以外の官能基に置換したピラジンで検索を進めたところ、既知のアルキルピラジンを上回る活性を呈するピラジン化合物も見出し、より活性の高い新規恐怖誘起物質の開発への道を開きつつある。
以前にマウスとエゾシカに恐怖行動を誘起する作用がある事を明らかにした。本年度はラットについて詳細な研究を行い、恐怖行動の発生と中枢レベルでの変化を捉えることに成功した。さらに、イヌや,イノシシなどでもその効果を確認したが、カラスや本州のシカの一種では効果が限定的であることも分かった(論文作成中)。
以前にP-mixは主嗅球と副嗅球のいずれも刺激し、恐怖行動を引き起こすことを示した。本年度は主にラットを用いてP-mix刺激時の恐怖行動と中枢でのFos陽性細胞の発現を検索した。その結果、ラット脳内では扁桃体内側核、同中心核、視床下部腹内側核背側中央部、室傍核などにFos陽性細胞が見られ、中枢経路の概要を明らかにした。これらは、モノテルペン類の混合物などではほとんど見られず、P-mix の特徴的な現象であることを示唆した(Helyon,under consideration)。
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