研究実績の概要 |
研究実施期間を通してフルオラスケミストリーの新展開に基づく実用的合成手法の開拓を目指し研究を遂行した。具体的には, 固相/液相間移動フルオラス Grubbs-Hoveyda 型触媒の開発と, カラムクロマトグラフィーを必要としないタグ化標的化合物の新規精製法の確立に取り組むと共に, フルオラスエンコード法による生物活性天然物合成(emericellamide A:抗MRSA活性), 及びその立体異性体のミクスチャー合成に取り組んだ。その結果, 実施期間内に以下の成果を得た。 Grubbs-Hoveyda 第2世代触媒の配位子上にフルオラスタグを導入することで, 均一反応系を達成しながら, 反応後には不均一系としてテフロンに触媒を固定化し回収できるメタセシス反応系を構築することに成功した。 また, 9-アントラセニル基を配位子に導入すると極めて高い触媒活性を示すことを見出し, 僅か 25 mol ppm の使用量でも首尾よく閉環メタセシス反応が進行することを明らかにした。 アミノ酸のN末端保護基としてフルオラス Fmoc 基を使用することで, 保護, 縮合, 脱保護の各反応において,カラムクロマトグラフィーを用いなくても反応系内への水の添加により高純度で生成物を単離できることを明らかにした。 Emericellamide A, 及びその立体異性体のミクスチャー合成では, 最終環化前駆体の合成を試みたが, フルオラスミクスチャー合成にて調整した4種類のペンタペプチド混合物と環化前駆体フラグメントとの縮合反応は, フルオラスペプチドの溶解度が問題となり, 目的生成物を得るには至らず, 年度内での全合成は間に合わなかった。今後, フラグメント同士の縮合と環化反応の二段階で emericellamide A は合成可能であり, 反応条件検討の後, 全合成を達成したい。
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