研究課題
《1)GN3Lの合成》Phillipsが提唱したHEWL遷移状態のアナログとして、(GlcNAc)4の還元末端GlcNAc残基を2-アセタミド-2,3-ジデオキシジデヒドロ-グルコノ-δ-ラクトン(L)構造に変換したGN3Lの合成を行った。方法は、400 mMホウ酸緩衝液(pH 7.0)に対して終濃度が100 mMとなるように(GlcNAc)4を溶解後、100℃で1時間加熱処理した。結果、生成物として還元末端GlcNAc残基のC2とC3が選択的に脱水されたGN3Dを収率4.4%で得た。さらに、亜臨界条件で反応を行うと触媒なしでも、水溶媒のみでGNnDが合成可能であることを実証した。続いて、GN3Dを蒸留水に溶解後、活性炭触媒を15%(w/v)となるように添加し、60℃で120時間反応を行った。結果、GN3Lへの定量的な構造変換を確認した。《2)GN3Mの合成》HEWLを触媒素子とした糖転移反応を利用することで、Koshlandが提唱した遷移状態のアナログとしてモラノリン(M)を末端構造に有するキトトリオシルモラノリン(GN3M)の合成を行った。具体的には、(GlcNAc)4とモラノリンのモル比率が1対7、反応液の全基質濃度が2.9%(w/v)となるように調整後、HEWLを添加し50℃で100時間反応を行った。生成物としてGNM、GN2M、GN3Mを収率36.3、5.9、2.7%で得た。《3)GNnD, GNnL, GNnMの利用》①GNDを基質としてβ-NAHaseの加水分解反応を行った。その結果、GNDから遊離したD構造は直ちにChromogen Iへ構造変換することが明らかとなった。この特徴を利用して、β-NAHaseの反応速度論解析を行うことに成功した。②HEWL以外のfamily GH22リゾチームに対する阻害効果を実証するため、GN3Lと無脊椎動物型のハマグリリゾチームとの結合試験を行った結果、共結晶の構造を1.77Åの分解能で決定した。③GN2Mがコケ由来family GH19キチナーゼの基質結合サブサイトに強く結合することをITC及びNMR法によって明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度の研究計画および方法に掲げた、HEWL遷移状態アナログの合成に関しては、Phillipusが提唱した遷移状態のアナログとして(GlcNAc)4の還元末端GlcNAc残基を2-アセタミド-2,3-ジデオキシジデヒドロ-グルコノ-δ-ラクトン(L)構造に変換したGN3Lを、Koshlandが提唱した遷移状態のアナログとして1-デオキシノジリマイシン(モラノリン;M)を末端構造に有するキトトリオシルモラノリン(GN3M)を合成した。また、GN3L、GN3Mともに反応条件の最適化を行い、合成収率をこれまでより向上することに成功した。さらに、HEWLの-4から-2サブサイトへの結合に関与するキチンオリゴ糖鎖長の影響を評価する目的で、GNL、GN2L、GNM、GN2Mも合成し、阻害剤ライブラリーの構築を行った。また、平成27年度以降の研究計画および方法に掲げた本遷移状態アナログの他酵素への応用にも着手した。その結果、コケ由来のfamily GH22キチナーゼやハマグリ由来のi-type リゾチームにも本阻害剤は作用することが示された。これらの結果より、HEWL遷移状態アナログの設計原理は他酵素にも適用可能であることが示された。この情報をもとに現在さらなる機能設計を進めている。以上のように全体的には、平成26年度の計画に掲げた内容は十分達成できている。
平成27年度の研究計画に従い、平成26年度に合成した各種HEWL遷移状態アナログを用いて、本阻害剤ライブラリーの機能評価およびHEWLの反応機構解析を行う。また、HEWLのみならず、他のfamily GH22リゾチームやfamily GH19キチナーゼに対する阻害効果を評価する。さらに、HEWL遷移状態アナログの設計原理をセルラーゼやアミラーゼなどのエンド型グリコシダーゼに適用することによる新規阻害剤の合成やオリゴ糖誘導体の利用研究を行う。
平成26年度に予定していた研究が予定通り進行したため、次年度の研究に充てることにした。
平成27年度に予定している遷移状態アナログ解析および機能設計の物品購入費に充てる。
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