研究課題/領域番号 |
26450151
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
好田 正 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20302911)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アレルギー / 免疫寛容 |
研究実績の概要 |
本研究では、現在アレルギーの唯一の根治的治療法として期待されている減感作療法を応用したアレルギーの予防を目指し、アレルゲン分解物を用いた食品アレルギー予防ワクチンの安全性と有効性の実証、および将来的なヒト試験への発展を目指した最適な実施条件の確立を目的としている。 昨年度はまず始めに、ヒトへ応用可能なアレルギー予防ワクチンに使用するため、多様なペプチドを含むアレルゲン分解物を調製した。アレルゲンの分解には酸処理法を用いた。モデルアレルゲンには卵白アルブミン(OVA)を用いた。処理温度と処理時間を変えて、アレルゲンを分解したところ、0.5 M HCl中で80℃で分解することにより経時的にアレルゲンの分解が進行することが明らかとなった。 次に、得られた分解アレルゲンの抗原性を競合ELISA法で評価した。その結果、分解の進行に伴い抗原性は顕著に低下し、80℃で24時間分解した場合にはほとんど抗原性を示さなかった。60℃で分解した場合も抗原性はある程度低下したが、24時間処理した場合でも未分解アレルゲンと比較して1/100程度の抗原性が残存していた。 さらに、分解アレルゲンをOVA特異的T細胞レセプタートランスジェニックマウスであるDO11.10の脾臓細胞とともに培養し、細胞の増殖応答を測定することで、T細胞刺激能を評価した。その結果、未分解アレルゲンと比較して分解の進行に伴い分解アレルゲンのT細胞刺激能が亢進していることが明らかとなった。 これらの結果は80℃条件下でOVAを24時間酸分解することにより、T細胞刺激能は保持したまま、抗原性を大きく喪失した分解アレルゲンを調製することが可能であることを示している。得られた分解アレルゲンは食品アレルギー予防ワクチンとしてヒトへ応用することが可能であると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の遂行において、分解アレルゲンの調製方法を計画と変更した。食品アレルギー予防ワクチンに用いる分解抗原には、抗原性の喪失とT細胞刺激能の保持が同時に求められるため、酸分解ではこれらの両立が困難であると考え、当初は種々の分解酵素を用いて分解した分解アレルゲンを混合したカクテルを食品アレルギー予防ワクチンとして使用する予定であった。しかしながら、モデルアレルゲンとして用いたOVAは分解酵素によりほとんど分解されず、目的とした分解アレルゲンを得ることが出来なかった。そこで、分解に用いる方法を変更し酸分解法を採用した。その結果、酸分解によって抗原性を喪失しT細胞刺激能を保持した分解アレルゲンを調製することが可能であることを実証することが出来た。酸分解は酵素分解と比較して、手間やコストを大幅に削減することができるため、当初の計画とは異なる方法ではあるが、むしろ計画を超える成果を得ることができたと判断している。 また、酸処理により調製した分解アレルゲンを実際にDO11.10マウスに摂取させたところ、食品アレルギーを誘導しないことも確認した。当初の計画では分解アレルゲンの抗原性はin vitroの実験系でのみ確認する予定であったが、実用化を目指すにあたり、安全性の評価は極めて重要であると判断したため、in vivoでの実験を追加した。得られた結果は、酸処理により調製した分解アレルゲンを用いた食品アレルギー予防ワクチンの安全性を示す重要な成果であると考えている。 一方で、当初の計画に含まれていた食品アレルギー予防ワクチンの作用メカニズムの解析は、次年度以降に実施することとなったが、分解アレルゲンの簡便な調整法が確立できたため、次年度以降に実施しても予定している結果を得ることは十分に可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に確立した、酸処理による分解アレルゲンの調整法で調製した分解アレルゲンを用いて、実際に食品アレルギーを予防できることを実証する。この際、投与量や投与期間、投与開始時期などを検討することで、食品アレルギー予防ワクチンの至適条件を検討する。また、ワクチン効果の継続時間を検討する。さらに、予防だけでなく既にアレルギーを発症したマウスに摂取させることで治療効果も検討し、両者における有効性の違いを明らかにする。現在、臨床の現場では減感作療法は治療のみが実施されているが、治療よりも予防に応用した方がより効果的にアレルギーを抑制できることを実証する。 加えて、分解アレルゲンによる食品アレルギーの予防メカニズムを解析する。その際、分解アレルゲンの摂取によるT細胞アナジーと抑制性T細胞の誘導に着目する。 これらの結果をより一般化するために、モデルアレルゲンとしてOVAを、食品アレルギーモデルマウスとしてDO11.10を用いて得られた成果を、他の食品アレルゲンやマウス系統にも応用する。そのために、他の食品アレルギーモデルマウスを確立する。食品アレルギーモデルマウスは、OVAに加え大豆や乳由来のアレルゲンをBALB/c、DBA/1、NC/Ngaマウス等の皮膚に塗布した後に、アレルゲンを経口摂取させることで誘導することを試みる。これによって誘導が認められない場合は、事前にアラムアジュバントとともにアレルゲンを免疫したマウスよりT細胞を分離し、同系未感作マウスに移入したマウスにアレルゲンを摂取させることを試みる。これらの中から食品アレルギーを発症することが示された実験系を用いて、酸分解アレルゲンによる食品アレルギー予防ワクチン効果を実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の実施状況が計画に対し若干の変更が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度予定していた研究計画の一部を本年度に実施するための経費として使用する。
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