研究課題/領域番号 |
26450156
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村上 明 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (10271412)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ファイトケミカル / 作用機構 / 抗炎症作用 / 適応応答 / ゼルンボン / ホルミシス / タンパク質ストレス / プロテオホルミシス |
研究実績の概要 |
まず始めに、ICRマウス小腸粘膜試料に対して、総計12種のファイトケミカルで処理し、タンパク質ストレス(プロテオストレス)を評価した。その結果、すでにプロテオストレス作用を確認しているゼルンボン(ハナショウガ)、クルクミン(ターメリック)、リスベラトロール(ブドウ果皮)、ジアリルトリスルフィド(ニンニク)、フェネチルイソチオシアネート(アブラナ科植物)などに顕著なプロテオストレス活性を認めた。さらに、クルクミンに関してはICRマウスに対する単回経口投与(2あるいは10 mg/kg体重)によって、小腸粘膜における恒常性維持タンパク質(例えば、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ)の一部を不溶化することを証明した。これはファイトケミカルによって消化管粘膜にプロテオストレスが起こることを示した最初の例である(論文準備中)。また、クルクミンは分化Caco-2細胞においてHSPの発現量を増加させたことからタンパク質品質管理機構を活性化することも示唆された。一方、ストレス負荷によって消化管から抗炎症性メディエーターが分泌されることを想定し、細胞外小胞(extracellular vesicles, EV)の抗炎症性をマウスマクロファージRAW264.7で評価したところ、熱ショックあるいはクルクミン処理した場合のEVには有意な抗炎症活性が認められた。さらに、熱処理した際に分泌される細胞外小胞タンパク質2000種以上を網羅的に解析したところ、熱処理特異的に発現量が増加するEVタンパク質をいくつか同定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに我々は、培養細胞溶解液や培養細胞を使った実験系でのみ、ファイトケミカルがプロテオストレスを起こすことを示してきた。しかし今年度に実施した実験により、マウス小腸粘膜試料(in vitro)、さらにはマウス経口投与(in vivo)においても同様のストレス反応が起きうることが証明できた。特に、クルクミンのように、我々が日常的に摂取しているファイトケミカル(カレーなどに豊富に含まれる成分)が経口摂取によって消化管内においてプロテオストレスを惹起するというデータは、プロテオストレスを介した生理機能発現機構の妥当性を支持するものと考えている。さらに、熱ショック処理やクルクミン処理した分化Caco-2細胞(小腸上皮様の形質を有する)から分泌されたEVにRAW264.7マクロファージにおける抗炎症活性が認められたことも非常に重要な知見であると捉えている。このデータは、物理的(熱ショック)あるいは化学的(ファイトケミカル)によるストレス性刺激によって、抗炎症性を有す未知分子が濃縮されたEVが細胞外に放出され、末梢における抗炎症機能を強化している可能性を示している。一方、熱ショック処理特異的にEV中で増加するタンパク質に関しては、それらが抗炎症作用を有するか否かはいまだ検討できていないが、ファイトケミカルの抗炎症活性を媒介する可能性もあり、次年度につながる興味深い成果である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果によってプロテオストレスを介した抗炎症機構の妥当性が支持されたことから次年度はこれを確証するデータの蓄積を図る。第一に、プロテオストレスによって活性化され、タンパク質品質管理機構に関与する種々の適応応答遺伝子のマスター転写因子として知られるHSF1に着目する。HSF1は抗炎症的な細胞応答を活性化することから、ファイトケミカルの持つ抗炎症機構がHSF1の発現低下によって減弱すれば、抗炎症作用におけるプロテオストレスの寄与が推察できる。すなわち、HSF1の発現量を低下させた細胞におけるファイトケミカルの抗炎症作用(LPSによるiNOS/COX-2/IL-6/IL-1beta/TNF-alphaなどの誘導・産生抑制作用)がどのように変化するかを究明する。一方、熱ショック刺激によってEV中に蓄積すると考えられるタンパク質に関しては、RNAiなどの方法によって発現量を低下されることで抗炎症機構における役割を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
すでに保有の試薬などの転用が可能になり、また、他研究費による補てんが可能となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
タンパク質や遺伝子発現解析のための試薬購入が中心となる予定である。また、細胞培養のための培地、血清、培養器具、マイクロチューブ類などの消耗品も多数、必要となる。一方、旅費に関しては、アジア栄養会議(横浜、要旨提出済))その他で研究成果の発表を行うために充当する。
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備考 |
兵庫県立大学環境人間学部食環境栄養課程フードホルミシス研究室ホームページ(2015年4月現在の所属)
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