研究課題
本研究はセリン合成の律速酵素である、3―ホスホグリセリン酸脱水素酵素(PHGDH)の①組織分布、②栄養状態、加齢、病態での発現変動、③組織内および血中セリン濃度を解析し、これまでほとんど明らかにされていない可欠アミノ酸の組織における代謝要求量とde novo 合成、食餌による供給量の関係を明らかにする事を目的としている。H27年度の実績は1)H26年度の継続としてタンパク質栄養の影響を検討した。成長期および成熟期ラット肝臓における3-ホスホグリセリン酸脱水素酵素(PHGDH)の発現は必要量を境に低タンパク質食で促進され、必要量以上では抑制される。このときの血中アミノ酸濃度の変化を測定したところ、セリンの濃度が最も顕著に変化し無タンパク質(高糖質)食で他のアミノ酸と比較しても最も高くなり、餌のタンパク質含量の増加とともに顕著に減少した。このとき、セリン分解の律速酵素であるセリン脱水酵素(SDH)の発現も合わせて測定したところ、PHGDHとは対照的に必要量以上で餌のタンパク質含量に応答してその発現が誘導された。このことから血中セリン濃度は肝臓における二つの酵素の対照的な発現によって制御されていることが考えられた。2)糖尿病ラットの各種臓器におけるPHGDHの発現を検討した。その結果、肝臓で発現は抑制され、腎臓と小腸では促進されること。脳や精巣など他の臓器での発現は変化しないことを見出した。このとき腎臓と小腸に過形成が見られることから、PHGDHの発現促進がこのことと関与する可能性が示唆された。3)Leu過剰摂取によるアミノ酸インバランスにおける遺伝子発現の変化をゲノミックスにより解析してきたが、PHGDHの発現との関連について詳細に検討した結果を論文として発表した。
3: やや遅れている
1)本研究ではウェスタンブロットにおける解析を主たる手法としているが、新たに抗体を購入したところ検出感度が著しく低下し、その原因が新たに購入した一次抗体だけでなく二次抗体にもあったため、実験系の正常化に時間を費やした。2)専攻長としての業務以外に、27年度に入ってから入試業務および組織改編の準備委員長に任命されたため、学生の指導が十分に出来なかった。
1)タンパク質栄養実験で、各組織におけるアミノ酸組成の分析が分析途上で完了していないので、これを完了する。2)糖尿病ラットの各組織におけるアミノ酸組成の分析が分析途上で完了していないので、これを完了する。3)加齢実験では、飼育の開始が遅れ現在飼育中であるので、飼育が終了次第解析に移る。
1)H27年度に予定外の本務業務が増え、十分に学生を指導出来なかったため。2)ルーチンで行っていたウェスタンブロットが購入した一次抗体、二次抗体が十分機能せず、ロット選択に時間を要したため。
博士課程2回生の学生1名とともに前年度未達の実験と本年度予定の実験を以下のように行う。1)ウェスタンブロットによる解析と各臓器のアミノ酸分析が解析途上にあるので、これを継続して行う。2)28年度に計画されていた糖尿病ラットの解析を27年度に開始したため、27年度に予定されていた脂質栄養の影響を検討を本年度に行う。3)加齢による代謝要求量の変動を解析するため、長期飼育を継続中であり飼育終了後、直ちに解析を開始する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo)
巻: 61 ページ: 441-448
10.3177/jnsv.61.441.