本研究では、典型的な可欠アミノ酸であるセリンに着目し、セリン合成の律速酵素である、3―ホスホグリセリン酸脱水素酵素(PHGDH)の①組織分布、②栄養状態、加齢、病態での発現変動、③組織内および血中セリン濃度を解析し、これまでほとんど明らかにされていない可欠アミノ酸の組織における代謝要求量とde novo 合成、食餌による供給量の関係を明らかにする事を目的としている。 最終年度はセリンの炭素骨格が解糖系の中間代謝物である3-ホスホグリセリンから供給されることから、糖質摂取量が臓器(脳、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、脾臓、脂肪組織、筋肉、精巣)におけるPHGDHの発現とセリン濃度に与える影響を5%と言う低糖質食を与えることで検討した。また、これまで未完であった血漿およびそれぞれの臓器におけるアミノ酸濃度の測定を前年度に引き続いて行い完成させた。 最終年度とこれまでの結果から以下のことが明らかとなった。 ①調べたすべての臓器でPHGDHの発現を認めた。②加齢ラットとの比較から肝臓ではPHGDHの発現がタンパク質必要量を境に変化すること。また、低タンパク質栄養では増加し高タンパク質栄養ではその発現がほとんど見られなくなることを示した。③糖尿病において肝臓のPHGDの発現は減少するが糖質摂取量による影響は受けないことが明らかとなった。④他の臓器のPHGDHの発現は栄養条件や糖尿病による影響はほとんど見られなかった。④肝臓ではPHGDHの発現変動に伴いセリンの濃度が変化した。⑤低タンパク質栄養で肝臓以外の臓器ではPHGDHの発現に変化が見られなかったが、殆どの臓器でセリン濃度が増加していた。 以上のことから、肝臓におけるセリン濃度はPHGDHの発現と一致することが示されたが、他の臓器においてはそのような相関は認められなかった。しかし、少なくとも低栄養状態でもセリン濃度が維持されることが明らかとなった。
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