研究課題/領域番号 |
26450163
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
斉藤 靖和 県立広島大学, 生命環境学部, 准教授 (90405514)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ビタミンC / アスコルビン酸 / 細胞老化 / 活性酸素 / 線維芽細胞 / SASP |
研究実績の概要 |
ビタミンC(VC)は、ヒトでは体内合成できず、その不足は様々な疾患リスクの亢進を招く。これまでに我々は、老化に伴ってVCの必要性が増大していることを見出し、高齢者におけるVC摂取の重要性について報告してきた。本研究では、この老化に伴うVC必要性の変化が細胞機能へどのような影響を与えうるのかを明らかにすると共に、VC輸送機構の解明を目的としている。3か年計画の2年目にあたるH27年度では、H26年度の①VC輸送・蓄積能と老化との関連性、②VC輸送調節因子の検討に関するデータ蓄積を進めると共に、③VC添加による老若細胞間での影響の差異に関する検討、④老化細胞の特性解析についても検討を進めた。具体的にはH26年度と同様にまず、ヒト由来の線維芽細胞2種(TIG-1細胞、NB1RGB細胞)について老化細胞を取得し、細胞老化は顕微鏡観察および粒度分析装置による細胞老化に伴う細胞サイズの変化および老化マーカーの一つであるsenescence-associatedβgalactosidase活性の評価により確認を行った。次に、若い細胞および得られた老化細胞を用いて、①VC輸送・蓄積能と老化との関連性について検討を行い、両者のVC輸送能に違いがあることを確認し、これまでの報告を裏付けることを示唆する結果を得た。また、②については亜鉛およびレスベラトロールの他にストレス刺激による影響についても検討を行い、VC輸送調節因子となりうる因子を探索している。さらに、③VCの添加が細胞に与える違いを調べるためVCの有無による老若細胞間の遺伝子発現パターンの差異についてGeneChipを用いた解析を進めている、また、④細胞老化に伴う遺伝子の発現パターンの違いについてもビタミンCトランスポーターであるSVCT1、SVCT2や炎症性サイトカイン等のSASP関連遺伝子を中心に解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、老化がVCの輸送および生理機能に与える影響を明らかにすると共に、VC輸送制御機構を解明することを目的としている。現段階では、H26年度の実験計画として掲げた“老若細胞間でのVC細胞内輸送・蓄積能の差異を明らかにし、VC輸送タンパク質SVCTの発現変化との関連性を明らかにする”について解析を進めており、一定の成果をあげている。また、昨年度問題となっていたウエスタンブロットによるSVCTの発現変化の解析が難航していた問題については、種々の条件検討によりH27年度に解決の糸口がみえてきた。H28年度においてもさらに良い条件での解析を試みたい。一方、また、老化細胞によるSASPが周囲の細胞のVC輸送に与える影響を調べる(H26-27年度)”という目標に対して、ヒト由来の線維芽細胞2種(TIG-1細胞、NB1RGB細胞)の老化細胞を取得し、老若細胞間でのVC輸送能の違いについて検証を行うと共に、老若細胞間での発現遺伝子の差異について解析を進めており、老化細胞が分泌するサイトカインが周囲の細胞のVC輸送に与える影響を調べるための予備的な検討データが蓄積された状況にある。また、H27-28年度に計画していた“VC輸送制御機構の解明と調節因子の探索:ストレス刺激に対する応答性の検討やVC輸送活性を高める因子の探索を行う(H27-28年度)”についてもストレス刺激を含めた予備的な検討を進めている。さらに、VCの添加による老若細胞間の遺伝子発現パターンの差異についてGeneChipを用いた解析を行っており、この解析からも老化とVCの輸送、生理機能への影響に関する様々な情報が得られることを期待している。以上の状況から、項目によって進捗状況の違いはあるが、総合的に判断すると当初の実験計画に対しておおむね順調な進捗状況であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
以下に示す計画に従って、研究を推進していく予定である。 ①老若細胞間でのVC細胞内輸送・蓄積能の差異を明らかにし、VC輸送タンパク質SVCTの発現変化との関連性を明らかにする(継続)。これまでの研究を継続すると共に、再現性の確認を進める予定である。また、これまでの研究結果をまとめて公表する予定である。②老化細胞のSASPが周囲の細胞のVC輸送に与える影響を調べる(継続)。共培養アッセイ系あるいは、老化細胞の上清を加えるアッセイ系を用いて解析を行う予定である。③VCが関連する生理作用との関連性:VCの生理作用として代表的な抗酸化能やコラーゲン合成能とVC輸送・蓄積との関係性を見出すため、VC添加に伴う遺伝子発現の網羅的解析を行う(継続)。本テーマについては、既にGeneChipを用いた解析を進めているところである。④VC輸送制御機構の解明と調節因子の探索:ストレス刺激に対する応答性の検討やVC輸送活性を高める因子の探索を行う(継続)。現在、ストレスおよび低分子化合物による輸送能の変化について検討を行っており、今後も継続して検討を進める。⑤さらに、がんの補完代替医療として報告のある高濃度VC点滴療法にも着目し、VC輸送の関わり等についても検証を進めていく計画である。 当初考えていたヒト表皮角化細胞は基本的に幹細胞からの継続的な供給に基づくターンオーバーがあり、細胞老化という観点にそぐわないと考えられることから、線維芽細胞に的を絞って解析を進めていく。また、NB1RGB細胞では培養条件を少し変えて今後、検討を進めていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒト表皮角化細胞での検討条件を見直したことにより次年度使用額が生じたこと(今後の研究の推進方策等の項目にも記載)、また、試薬や解析依頼のキャンペーンを上手く活用することなどにより次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた次年度使用額については、今後の解析において新たに試薬等の購入が必要と見込まれるVCが関連する生理作用との関連性の解明やVC輸送制御機構の解明と調節因子の探索などの研究費へと充て、研究目的達成のため有効に活用する計画である。
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