研究課題/領域番号 |
26450164
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
新本 洋士 玉川大学, 農学部, 教授 (50355301)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スギ花粉 / トマト / アレルギー / アレルゲン / 口腔アレルギー症候群 / エピトープ / 一次構造 |
研究実績の概要 |
新たに抗スギ花粉抗体高陽性患者#15から末梢血リンパ球を分離した。シクロスポリン存在下でリンパ球にEpstein-Barrウィルスを感染させて芽球化して増殖を誘導し,172グループのBリンパ芽球様細胞群(BLCs)を得た。この中からスギ花粉およびトマト果実抽出液双方に反応性のある抗体分泌細胞2群を選抜し,マウス骨髄腫細胞株と細胞融合を行った。前年度から引き続き細胞融合後の選択培養条件の検討を行い,BLCを低濃度のウアバイン存在下で死滅させる条件を設定することに成功した。 細胞融合の結果,ヒトモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ2クローンを樹立することができた。すでに保有しているスギ花粉アレルゲンタンパク質Cry j1およびCry j2に反応するヒトモノクローナル抗体3種とともに抗原特異性を検討したところ,トマト果実抽出液に反応するヒトモノクローナル抗体は,いずれもCry j2に結合することが判明した。 Cry j2の一次構造を元に,20アミノ酸長で10アミノ酸ずつのオーバーラップを含むペプチド群を固相合成し,固相ペプチドELISAによってヒトモノクローナル抗体の結合性を調べたところ,4種のヒトモノクローナル抗体のうち,ペプチドに結合したものは1抗体のみであった。さらに結合したペプチド配列から10アミノ酸,8アミノ酸,6アミノ酸長のオーバーラップペプチドを合成し,コアとなる短いペプチド配列の存在を見いだした。このような配列と相同性を持つトマト果実アレルゲンの検索を行ったが,類似配列は見つかっていない。 固相ペプチドELISA陰性であった3クローンについては,Cry j2の立体構造を認識しているものと推定された。今後,立体構造上に存在するエピトープを明らかにする解析方法の導入が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は,細胞融合後の選択培養条件の確立により,スギ花粉およびトマト果実抽出液に結合するヒトモノクローナル抗体を分泌するヒト-マウスハイブリドーマの作出に成功したことが大きな成果である。このうち,1抗体のみではあるが,得られたヒトモノクローナル抗体が結合するペプチド配列を明らかにすることができたことは特筆に値する。これまでスギ花粉アレルゲンタンパク質Cry j2に結合するヒトモノクローナル抗体の報告はなく,わずかに複数のスギ花粉症患者血清を用いたB細胞エピトープの解析が行われているのみであった。 ヒトモノクローナル抗体のこの分野への応用は,単一エピトープの詳しい解析の強力なツールとなると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は本研究の最終年度である。これまでに得られたスギ花粉およびトマト果実抽出液に対する複数のヒトモノクローナル抗体の特異性をより詳しく検討し,トマトによる口腔アレルギー症候群発症に関わるアレルゲンエピトープの解析を行う。ただし,Cry j2およびヒトモノクローナル抗体のタンパク質としての回収量がきわめて少ないことが課題の一つであることから,抗体高分泌クローンの分離を繰り返し試みる。以下に主な研究内容を記す。 1)リニアエピトープに対するヒトモノクローナル抗体: リニアエピトープコアペプチド中のアミノ酸配列の役割を明らかにするために,これまでに明らかになったリニアエピトープ候補配列中のアミノ酸を1アミノ酸ずつアラニンに置換したペプチドを合成し,モノクローナル抗体との結合性を検討する。この際,1アミノ酸置換に加えて,連続した2アミノ酸を置換したペプチドも合成する。また,アレルゲンの相同性については,トマトアレルゲンに限定せず,種々の植物について検索を行う。 2)立体構造を認識すると考えられるヒトモノクローナル抗体: Cry j2の加熱,還元,プロテアーゼ処理等を行い,抗体の結合性を測定することによってエピトープ近傍の構造を推定する。また,Cry j2は規則的なβターンを繰り返した構造を持つ。これをある程度の大きさに切断することによって,分子量の小さい抗体結合単位が得られないか検討する。さらにトマト果実抽出液に対するウェスタンブロット解析を行い,ヒトモノクローナル抗体結合するタンパク質の同定を試みる。
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