研究課題/領域番号 |
26450165
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
高橋 恭子 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (70366574)
|
研究分担者 |
細野 朗 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (70328706)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 腸管 / 上皮細胞 / 共生細菌 |
研究実績の概要 |
近年、腸内細菌が宿主の健康維持に重要な役割を果たすことが急速に明らかにされてきたが、莫大な数の腸内細菌が宿主免疫系に排除されずに共生する機構については十分明らかにされていない。 本研究では、まず、腸内の共生の成立に関わるモデル遺伝子として、病原菌からの防御のみならず腸内細菌叢の維持に重要な役割を果たす抗菌ペプチドα-ディフェンシン5、および菌体刺激によるシグナル伝達を抑制するTollipを取り上げ、腸管上皮細胞(IEC)における発現調節機構を解析した。α-ディフェンシン5遺伝子の5´領域中に転写調節配列を同定し、この配列への結合因子候補としてFBP1を同定した。また、大腸IECにおいて顕著に高いタンパク発現が認められるTollipの発現調節機構について、小腸IECにおけるmiRNAによる翻訳抑制に加えmRNAの転写後修飾が関わる可能性が示された。 次に、共生の分子機構として、腸内細菌による宿主IECに対するエピジェネティックな作用を明らかにするため、DNAメチル化とmiRNA発現に着目して解析を行った。まず、腸内細菌によるIECにおけるDNAメチル化の変動を確認した。通常および無菌マウスの大腸IECからゲノムDNAを調製し、メチル化CpG結合タンパク質を用いたプルダウンアッセイを行った結果、腸内細菌によりメチル化頻度が増大あるいは低下する遺伝子集団が特定された。一方、通常および無菌マウスのIECにおけるmiRNA発現をマイクロアレイにより解析した結果、腸内細菌により発現が顕著に変動するmiRNAが存在することが明らかになった。また、腸管の部位により発現が顕著に異なるmiRNAも同定された。腸内細菌により発現が増大することが確認されたmiR-21-5pについて、IEC株を用いた解析により、菌体成分により発現が誘導されること、上皮透過性の調節に関わることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究計画として、1.腸管上皮細胞における共生関連モデル遺伝子の発現制御機構の解析、2.腸内細菌により誘導される腸管上皮細胞のエピジェネティックな変化の解析という研究計画であったが、おおむね順調に達成したと考えている。1については、2つのモデル遺伝子を取り上げ、それぞれ特徴的な発現調節機構が明らかになった。2については(1)大腸上皮細胞において腸内細菌によりメチル化が変動する遺伝子の網羅的解析(2)小腸および大腸上皮細胞におけるmiRNA発現パターンに及ぼす腸内細菌の影響の2点について実施した。次世代シーケンスの委託解析が来年度に持ち越しとなった以外は、おおむね計画に沿って研究を遂行することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度に腸内細菌によりDNAメチル化が増大あるいは減少する遺伝子群を同定した結果をもとに、まず、腸内細菌により特定の遺伝子集団のメチル化が調節される機構を明らかにする。このために、DNAメチル化酵素あるいは脱メチル化酵素と標的遺伝子をつなぐ分子の同定を試みる。同定された分子につき腸管における機能や発現パターンを解析し、共生の成立・破綻、腸内共生系の恒常性維持における役割を明らかにする。また、平成26年度に同定された腸内細菌依存的なmiRNAについて、ターゲットとする共生関連遺伝子の特定を行う。特定できた遺伝子の腸管上皮細胞における役割を解析することにより、同定したmiRNAが腸管における共生の成立にどのように関わるかを明らかにする。さらに、DNAメチル化制御の鍵となる分子、および共生関連遺伝子の発現を制御するmiRNAの発現や機能が腸内細菌によりどのように制御されるか、腸内細菌のうちどの菌種が高い制御活性を有するかを調べる。腸内共生系の改善効果を有する食品成分の評価系を構築するために、これらの分子について食品因子による腸管内生態系の制御のためのターゲットとしての有用性を評価する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次世代シーケンス委託解析費として使用するために計上していた直接経費・その他(700,000円)について、解析時期を平成26年度末の予定にしていたが、サンプル調製に予定よりも若干時間がかかったために平成27年度はじめに解析を行うこととした。また、直接経費・物品費について一部実験試薬の購入が平成26年度から平成27年度にすれこんだため。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成26年度末に予定していた次世代シーケンス委託解析を平成27年度はじめに行い、直接経費・その他として計上していた費用を使用する。また、平成26年度に購入予定で一部未購入となった分子生物学および生化学実験試薬についても平成27年度に購入して共生関連遺伝子の発現および機能解析実験に使用する。
|