研究課題
我々は、胃腸特異的に発現する細胞内プロテアーゼであるG-カルパイン(カルパイン8とカルパイン9のプロテアーゼ複合体)が、ストレスに対して作動する胃粘膜防御に関与することを見出し、さらに、腸管においてはヘルパーT細胞の一種であるTh17細胞の分化制御に関わる可能性を見出した。本年度は、G-カルパインによる胃粘膜防御機構の検討と、G-カルパインによる腸管Th17細胞分化制御機構の解析を進めた。まず、前者について、培養細胞レベルでG-カルパインノックダウン株が細胞増殖・移動能の遅延をもたらすというこれまでの知見に基づき、マウスへBrdUを投与し、G-カルパインKOマウスを用いた個体レベルでの細胞増殖・移動能を調べたところ、野生型マウス及びG-カルパインノックアウトマウス(カルパイン8及び9遺伝子ノックアウトマウス、以下、DKOマウス)との間で差が見られなかった。後者については、これまでにDKOマウスにおいて野生型マウスよりも腸管Th17細胞数が減少していることを見出していた。今年度は、カルパイン8または9どちらか一方の遺伝子ノックアウトマウスでの腸管Th17細胞数を調べたが、DKOマウスと同様の結果が得られるとの予想に反し、個体間で結果にばらつきがみられた。
3: やや遅れている
胃粘膜防御機構解析では、培養細胞レベルで示唆されたことが個体レベルでは反映されず、G-カルパインが細胞増殖・移動制御を通じた胃粘膜防御に関与しないことが明確になった。他の可能性を探る必要が生じたものの、一点事実を明らかにできたことは前進である。一方、腸管免疫への関与についての解析では、その可能性がゆらぐ結果となった。得られた結果が実験手法のぶれによるものかどうか検討するところまで戻ることになってしまい、こちらは計画より遅れが生じてしまった。
胃粘膜防御機構解析では、G-カルパインによる細胞増殖・移動制御の可能性が低いことから、マウス胃または細胞株を用いたプロテオーム解析やその他の細胞機能解析等による関連因子の同定を行う。また、G-カルパインの腸管免疫への関与の可能性検討については、進捗状況の項でも記した通り、実験手法のぶれの有無をまずはっきりさせたい。腸管固有層からの免疫細胞の単離は非常に手間のかかる作業で、一回に多くの検体を扱うことも難しい。今後、より慎重に作業を進めたい。
本年度得られた研究結果から、腸管免疫解析に見込んでいた消耗品予算の執行を一旦見送る必要が生じたため。
研究代表者の所属機関には機器類など備品は整っているので、これらを使用することで研究を進める。マウス繁殖・購入の費用、また、免疫学的解析で必要となる抗体等の比較的高額な消耗品の購入費に次年度の研究費の多くを充てる予定である。その他、論文校正・投稿や、学会参加を予定しているため、これらにかかる費用に充てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
Biochimie
巻: 122 ページ: 169-187
10.1016/j.biochi.2015.09.010
Mol Cell Proteomics
巻: 15 ページ: 1262-1280
10.1074/mcp.M115.053413.
http://www.igakuken.or.jp/