我々は、カルパインと呼ばれるCa2+要求性細胞内プロテアーゼファミリーの胃腸特異的分子種であるカルパイン 8(CAPN8)とカルパイン9(CAPN9)の生理機能解析を進めてきた。興味深いことに、これらはヘテロ二量体「G-カルパイン」を形成して粘液分泌細胞(胃粘膜上皮の表層粘液細胞及び腸管の杯細胞)に局在することと、CAPN8 または CAPN9 一方を欠損させたマウスでは、アルコール溶液投与による胃粘膜の損傷が野生型マウスに比べ有意に増悪することから、G-カルパイン(CAPN8/9)が対アルコール胃粘膜防御に機能することを明らかにした。 本年度は、この分子機構の解明を目指した研究を進めた。 胃に何らかの負荷がかかり損傷が起こると再生・回復するが、G-カルパインが粘液分泌細胞に発現することから、まず、粘液産生・分泌を介して損傷を食い止めている可能性を検討した。野生型マウス、Capn8KOマウス、Capn9KOマウスについてアルコール投与前後の胃粘膜粘液分泌細胞の電顕観察を行ったところ、粘液顆粒の数に変化は見られず、粘液産生・分泌への関与は可能性が低いと考えられた。次に、粘膜の再生過程における上皮細胞の増殖・移動への関与を考え、培養細胞を用いて実験を行った。粘液分泌細胞由来の細胞株を用いたスクラッチアッセイを行うと、カルパイン阻害剤であるcalpeptin作用下で細胞移動の遅延が起こること、大腸ガン由来細胞株を用いたノックダウン実験を行ったところ、CAPN8、CAPN9いずれかをノックダウンすると細胞増殖の遅延が見られた。 以上の結果から、G-カルパインが、粘液・重炭酸分泌制御ではなく、細胞の移動や接着の制御を通じて胃粘膜保護に作用する可能性を見出した。
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