研究課題/領域番号 |
26450173
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小関 成樹 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (70414498)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | トリプトファン |
研究実績の概要 |
D-Tryptophan (D-Trp) の添加濃度と添加食塩濃度との関係をロジスティック回帰分析により,増殖確率を食塩濃度とD-Trp濃度の関数として記述して,増殖確率を導出可能とした。その結果,食塩濃度2.5%,D-Trp濃度40 mMの組合せから増殖抑制効果を示し,食塩濃度が高まるにつれ必要なD-Trp濃度が低下することを見出した。ロジスティック回帰分析の結果から,E. coliの増殖抑制をその確実性(確率)を考慮して,食塩濃度とD-Trp濃度の組み合わせによる任意の条件で設定することが可能となり,実際の食品へと応用する際の重要な情報を得ることができた。 さらに,D-Trp添加によるE. coliの増殖抑制効果を検討したところ,食塩濃度5%,D-Trp濃度40 mMの条件下における保存温度の影響を明らかにした。D-Trpを添加した液体培地においては,増殖抑制効果を示すにとどまらず,保存期間の延長に伴いE. coliの死滅が確認された。また,保存温度の上昇に伴い,E. coliの死滅速度が増大する傾向が明らかとなった。通常,37℃~43℃環境下はE. coliの増殖速度が最大値を示す温度帯であるにもかかわらず,死滅が顕著であった。このことは,D-Trpの作用がE. coliの代謝活性と密接に関係していることを示唆している。すなわち,E. coliの代謝活性が高い状態において,積極的に細胞内にD-Trpが取り込まれ,その結果として代謝異常を誘導して死滅が速まることを見出した。今後は実際の食品系,例えば調味液等へのD-Trpの添加による細菌の増殖抑制効果の確認を通して,実用化の可能性を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
D-Tryptophan (D-Trp) の添加濃度と添加食塩濃度との関係性を数理モデル化できたことに加えて,温度パラメータを加えた新たな細菌増殖制御手法を確立した。さらに,D-Trpの添加が増殖抑制のみならず,細菌を死滅させていることを明らかにした点は極めて大きな進捗であった。実際の食品系への応用については,当初予定よりもやや遅れているが,本年度の研究成果は応用面での展開以上に大きなものであったことから,研究全体としては概ね順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
菌数変化データから,種々の環境要因をパラメータとして速度論的にアミノ酸添加による増殖の遅れを記述する数理モデルを開発する。本モデルはアミノ酸添加の効果により,「どの程度の期間でどの位の菌数にまで増えるのか?」を予測可能とする。 菌数データを基礎とするが,速度論的なデータの解釈,解析方法とは異なる手法を採用する。具体的には,菌数の時間変化データを基にして,任意の保存時間において,ある基準菌数に「到達した/到達していない」といった判定を行い,データを二値化する。これによって,二値変数を説明する多変量解析手法の一つであるロジスティック回帰分析を適用して,確率としての評価を可能とする。本モデルによって,「どのくらい保存をした場合に,どの位の確率で,ある基準菌数に達するのか?」を予測可能とする。 これらの開発する2つのモデルは,モデル開発に用いたデータ以外の条件で取得した実験データを用いて検証を行い,その妥当性を確認する。最終的には必須アミノ酸添加による細菌増殖抑制効果を様々な条件下で速度論的にも確率論的にも予測可能とする数理モデルを完成させ,必須アミノ酸添加による新たな微生物制御技術を採用した食品加工方法を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定どおりの使用額であったが,割引等で予定よりも減額があったため残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の物品費購入の補足分とする。
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