ナノ・マイクロ微粒子をキャリアとして食品成分を特定の生体器官へと送達させる技術開発研究は,近年ひろく認知されるようになってきた.食品用途としてのカプセル作製は,食品原料として許容される限られた材料から実施される必要があり,製品の最終品質を様々に制御できるプロセス技術開発が希求の課題である.そこで研究代表者は,凍結を利用したナノ・マイクロカプセル製造法を提案し,研究を実施した.凍結過程で生じる氷晶は,溶質や分散質を排斥し,凍結濃縮相と呼ばれる高濃度液相を形成する.凍結濃縮相内にてナノ粒子形成を進行させれば,粒子形成は凍結条件に応じた速度にて進行する.粒子特性がその構造形成速度に依存する場合,凍結によってその特性が制御できると期待された. タンパク質から作製できる微粒子は,食品栄養素や機能性物質を体内へ適切に送達・放出するカプセルとして利用できる.本課題では,カゼインナトリウムの自己凝集を利用して作製した凝集ナノ粒子(ナノカプセル)を,凍結操作によって作り分ける手法と原理を研究した.凍結を経ることで微粒子表面に暴露される脂溶性物質の量は増加し,疎水性機能物質を粒子内部に格納したいという思惑とは逆の現象が進行した.しかし,この乾燥試料を水中に再分散させて得た試料の疎水性度を評価すると,凍結を経た試料の方がより低い疎水性度を示した.これは再水和する際に不利な疎水的表面を粒子同士が凝集することでキャンセルさせたためと考察できた.また,凍結操作によって粒子の疎水性度を変化させた微粒子の,模擬消化過程における構造変化を解析したところ,粒子ナノ構造の顕著な変化が確認できた.消化過程における物質の放出,もしくは生体取り込み能が変化する可能性が強く示唆された.
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