研究課題/領域番号 |
26450182
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
野口 智弘 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (80297598)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | PDI / パン / アスコルビン酸 / ERO1 |
研究実績の概要 |
平成27年度の目的として、小麦粉タンパク質へのPDIの作用機作および製パンにおいてSS結合に関与するとして用いられている改良材であるアスコルビン酸(AA)とPDIとの関係性を検討した。これまで、製パンにおいてアスコルビン酸は、小麦粉中のアスコルビン酸オキシダーゼによって酸化されデヒドロアスコルビン酸(DHA)となり、酸化剤として小麦粉タンパク質中にSS結合を形成するとされてきたが、DHA単体をタンパク質へ作用させるとSS結合形成量は製パン工程にて生成されているほどのものではない。一方で、製パン性向上効果は大きくSS結合形成も確認されている。そこで、他の何らかの機構と連携してSS結合形成を促進しているものと考えられ、この機構としてPDIとの連携を推察した。 小麦粉より0.1M酢酸溶液にて調製したタンパク質(小麦粉内在PDI失活)に製パンに用いるAA濃度から算出したDHAを作用させたところ、ほとんどSS結合形成が観察されなかった。一方で、PDIを作用させると約0.6μmol/タンパク質1gのSS結合が観察され、さらにPDIとDHAをともに作用させることで、約1.0μmol/タンパク質1gと大幅に増加した。 PDIは小麦粉タンパク質へSS結合を形成させると自らは還元型となり酸化能を失う。この酸化能再生にERO1が関わっているが、DHAもこの酸化能再生に関わること推察された。そこで、還元型PDIに対しDHAを作用させ、蛍光標識剤にてSH基を標識しその酸化再性能を確認した。その結果、DHA添加によってPDIの蛍光が減少し、遊離SH基の減少が観察され、DHAによるPDIの酸化再生が明らかとなった。 以上の結果より、従来AAによる製パン改良効果は、AAより生成したDHAが直接小麦タンパク質に対し作用しSS接合を形成し製パン性を向上させると考えられていたが、本現象はPDIを介し機能していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究における課題として小麦粉生地形成中におけるPDIとERO1との関係性の解明が主たる目的であるが、これまでに小麦粉中におけるERO1の存在は確認できるものの、活性量の測定ができていない。この理由として、ERO1が小胞体膜に結合し存在していることから、膜より分離することによりその活性を失ってしまうことが主要因である。また、小麦種子登熟過程においてERO1の存在をウエスタンブロット法にて確認したところ、登熟後期に最大量となり、その後収穫期に減少することを確認している。このことから、測定法の問題に加え存在量の減少といった2点の問題を解決することが今後の課題として考えられる。このため、当初の目的からは、やや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針として、「現在までの進捗状況」において記載したERO1の活性確認が大きな問題となる。また一方で、製パンにおいてAAによる製パンの改良効果が、PDIの酸化再生に関与し生じていることが明らかとなった。また、この効果がリコンビナントERO1を添加した際と同等の効果を有していることから、経験的に製パン改良材として用いられてきたAAが、ERO1が担うPDIの酸化能再生機構を補助しているものと考えられる。 そこで本年度は、引き続きERO1の活性測定法の確立を目指すとともに、AAとPDIとの関係性についてより詳細に検討を行う予定である。また、昨年秋より栽培条件を振り、小麦の栽培を実施している。これら、栽培条件とPDIとの関係性や、小麦の品質の差異にいる製パン性の違いをPDIおよびERRO1、AAにより改善が可能か検討を行う。さらに、小麦PDIファミリーにおける小麦粉タンパク質への作用性の比較等を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題を通し、小麦PDIアイソザイムのタンパク質への作用機作の比較を行うため、PDIファミリーのうち発現量の多い、PDI1-1、4-1,5-1の抗体を作成し解析を行う予定である。 平成26年度にまでに1-1および4-1の作成を行った。平成27年度に5-1の抗体作成を計画したが、リコンビナント体の取得には成功したものの、抗体の作成が完了しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に作成が完了しなかったPDI5-1の抗体を作成する予定である。
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