研究課題/領域番号 |
26450185
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
高畠 令王奈 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品総合研究所 食品分析研究領域, 主任研究員 (20463466)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 定量分析 / PCR / DNA / 分子 / 遺伝子組換え |
研究実績の概要 |
PCR技術は、様々な研究分野から検査業務に至るまで、幅広く利用されている。定性的なPCR分析においては、僅か1分子のDNAをも検出可能であると考えられているが、その一方で、PCRによるDNA定量分析の技術的限界に関しては、これまで全く検証されてこなかった。これは、そのような検証が可能な、ごく少数のDNA分子を含む標準試料が存在していないことが原因である。本研究では、そのような一桁台を含むごく少数の規定数N個のDNA分子を含む標準試料DNAを開発し、さらに、既存のDNA定量技術の限界を検証する。具体的には、標的配列をN個含む標準DNA-Nの場合には、PCR標的配列をN個直列につなぎ、さらに、それらの標的配列の間に制限酵素の認識配列を配置した状態でプラスミドDNAに導入する。この標準DNA-Nを含む限界希釈溶液(試料溶液中に標準DNAが1個ないしは0個しか入っていない状態)を分析する直前に制限酵素処理することにより、分子数が任意のN個からなる標準DNAの調製が可能となる。 今年度は、ごく少数分子のDNA定量の可否が検証可能な標準DNAの設計及び構築を行った。本研究では、遺伝子組換え(GM)検知での適用を主要目的としていることから、GM検知に用いられているDNA配列を中心に設計を行う予定であるが、今年度は、その中でも、我が国のGMダイズ検知における標準分析法で利用されている、ダイズ内在性配列Lectin1 (Le1)を用いた。また、本研究では、限界希釈溶液を、PCR分析する直前に制限酵素によってN個に分離する必要があることから、PCRマスターミックス中においても活性を持った制限酵素の存在が不可欠である。そのため、上記の検討に先立ち、リアルタイムPCRマスターミックス中でも活性を有する制限酵素の選抜も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は標準DNAの構築を行う予定であったが、現在までのところ、ほぼ予定通り順調に進んでいる。まず、標準DNAの構築に先立って、リアルタイムPCRマスターミックス中においてもDNAの切断活性を有する制限酵素の選抜を行った。検討する制限酵素に関しては、専用バッファーの組成や失活のしやすさ、さらに価格等の観点から、ApaI、BamHI、ClaI、EcoRI、KpnI、PstI、SacI、SalIおよび SphIの9種類を試した。さらに、これらの制限酵素の標的配列をプラスミドに導入し、リアルタイムPCRマスターミックス中での標的配列の切断の有無を確認したところ、KpnI、PstIおよびSphIが比較的良好な結果を示した。標準DNAの構築にあたっては、対象配列を制限酵素等によって切りだして、DNAライゲーション反応によって既にある配列の隣につなげて伸長を行った。このような作業を繰り返すことによって目標の個数まで伸長を行ったが、同一配列を繰り返し導入することによって何らかの立体障害が生じるのか、8個を超えた伸長は非常に困難であった。そこで、構造を緩和させるために、繰り返し配列の周辺に無関係なジャンクション配列を導入させた。ジャンクション配列に関しては、A、T、G、Cのバランスの取れたランダム配列の内から、標的配列に対して相同性が低いものを、DNA情報解析用ソフトウェア等を駆使して選抜した。さらに、8個の繰り返し配列の間に2 kb程度の長さの無関係な配列を導入することによって、一つのプラスミド上にLe1を16個繋いだ標準DNAを構築した。
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今後の研究の推進方策 |
標準DNAに関しては、Le1を1個、2個、4個、8個、16個つないだものまで構築したが、引き続き、32個つながったものまで構築する予定である。さらに、Le1以外にも、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター等のGM配列に関しても、PCRの標的配列を複数個つないだ標準DNAを構築する。この際、今年度と同じ方法では非効率的であることから、既に論文等で報告されているGolden Gate法などの優れたクローニングシステムの導入を検討する。Le1だけでなく、複数の標的を対象に検証を行うことによって、より頑健性が増すと考えられる。 複数の標準DNAの構築が終了した後は、それぞれの標準DNAを、キャリアDNA等を含む溶液で段階希釈し、限界希釈溶液を調製する。このような、任意の個数のPCR標的配列を含む標準DNA群を用いて、様々なDNA定量法あるいは、定量装置の定量限界を検証する。例えば、リアルタイムPCRでは、定量が可能な範囲では、異なる分子数のLe1を含む標準DNA間では、実験的に得られるCt値間に統計学的な有意差が生じるはずである。標準DNA中のPCR標的配列の個数を段階的に減らしていき、何分子のDNAまでCt値に有意差がみられるか検証する。また、デジタルPCR解析に関しても、絶対定量が可能であるならば、PCR標的配列がN個ある場合には、N個のポジティブシグナルが得られるはずである。こちらも同様に、実際にどの程度の個数まで、想定通りの結果が得られるか繰り返し検証し、一定の割合で正確な値が得られる場合には、その頻度を決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Le1の標準DNA構築に関しては、当初は、標的配列を人工合成として外注する予定であったが、PCRによってより安価な構築を行ったことから、次年度使用額が生じた。しかしながら、次年度以降は、複数の標的に対して標準DNAを構築する予定であることから、人工合成の外注は避けられないと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額256,559円は、次年度に請求する研究費と合わせて、交付申請時の計画どおり、物品費および旅費等、研究遂行のために使用する。とくに、次年度以降は、さらに複数の標準DNAを構築することに加えて、構築した標準DNAを用いた検証実験を予定していることから、リアルタイムPCRやデジタルPCR等の消耗品が大量に必要になると予想される。
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