研究課題/領域番号 |
26450188
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中村 誠宏 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (80545624)
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研究分担者 |
小池 孝良 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (10270919)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生物多様性 / 地球温暖化 / 空間スケール / 生態系機能 |
研究実績の概要 |
北方林の優占種であるダケカンバ種内の遺伝的多様性が森林の生態的プロセス(生態系機能と昆虫群集構造)にどのような影響を与えるのか?をプロット・レベルで解明するために、ダケカンバの実験圃場を中川研究林内に設立をした。まず耕耘機で2回耕して苗木を植えられる土壌状態に戻した。ダケカンバの遺伝的多様性を操作するために6つの遺伝子型を使った。9月に中川研究林に生育している6箇所のダケカンバ個体群から2年生の苗木を採集した。遺伝子流動のない個体群から苗木を採集するために、個体群間の間隔を1km以上は離した。各個体群を一つの遺伝子型とみなした。1m x 1m方形区プロットに、6つの遺伝子型を使って3段階(1, 3, 6遺伝子型数)の遺伝的多様性を操作したプロットを設置した。プロットは2年生苗木を40cm間隔で9個体を栽植した。苗木には個体識別できるようにピンクテープの標識を付けた。プロット間隔は2m設けて緩衝帯とした。多遺伝子プロット(3又は6遺伝子数、多遺伝子区)は8反復とし、16プロット(2段階 x 8反復)を用意した。一方、単独遺伝子プロット(単独区)も8反復とし、48プロット(6遺伝子型 x 8反復)を用意した。合計で64プロットを設置した。微環境による影響を取除くためにブロック・デザインにした。各ブロックには全ての遺伝子型の単独区(8プロット)と2段階の多遺伝子区(2プロット)の合計10プロットが含まれている。そのため、この実験圃場は8ブロックで構成されている。これら設置したプロットの半分には、3年目にオープン・トップチャンバーを設置して、温暖化処理を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した本年度(26年度)の研究の目的は、1)樹木遺伝的多様性と温暖化の複合効果を検証する実験圃場を設定すること、2)実験圃場に植えた苗木の初期状態を調査することの2点であった。 26年度において、ダケカンバの6つの遺伝子型を使って3段階(1, 3, 6遺伝子型数)の遺伝的多様性を操作したプロット・レベルの実験圃場を中川研究林内に設置することができたため、実験圃場を設置するという一つ目の目的は達成された。 しかしながら、実験圃場に植えた苗木の高さや基部直径は測定しておらず、初期状態の調査は行っていない。その理由として、次年度(27年度)の5月に実験圃場で冬期に死亡した苗を新しい苗に交換して、苗木の定着率の高い状態から圃場実験を始めたいと考えているからである。そのため、次年度の6月に初期状態を測定する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2年目(27年度)の研究目的は、1)樹木遺伝的多様性が生態系機能に与える影響を解明すること、2)樹木遺伝的多様性が昆虫群集構造に与える影響を解明すること、3)樹木遺伝的多様性が被食に与える影響を解明することの3点である。 1)における生態系機能として苗木の生産性、光合成特性、窒素循環の調査を行う。苗木の高さと基部直径の測定から地上部の年生産量を評価する。葉の光合成特性を評価するために、携帯型クロロフィル計測器SPADを使いミトコンドリア量を測定する。地下部の生産量の評価のために、当初はミニ・ライゾトロンを使う予定だったが、実験が終了する3年目(28年度)に掘り起こすことで、地下部の生産量を測定する方法へと変更する。落葉分解速度を測定するために、プロット毎に回収した落葉を使ってリター・バック実験を行う。土壌の窒素無機化速度を測定するために、イオン交換樹脂を使ったレジンコアを地中に埋設する。 2)の解明のために、昆虫の多様性とその餌となる葉形質の調査を行う。昆虫と関係のある葉形質として、縮合タンニン、総フェノール、窒素、LMA、CN比を定量化する。一方、昆虫の多様性の評価として、各摂食機能群(咀嚼性、ゴール性、潜葉性、汲汁性)の種類・個体数を苗木全体の観察から評価する。 3)の解明のために、葉の被食度を目視で測定する。 また、前年度に行えなかった個体群間の遺伝的分化を正確に評価するために、ALFP解析を行う。さらに、3年目には温暖化のためにオープン・トップチャンバーの作成にとりかかる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理油として、1)中川研究林の技術職員と技能補佐員が協力してくれたたために圃場作成にあまり費用がかからなかったこと、2)地下部の生産量を測定するために、当初はミニ・ライゾトロンを使う予定だったが、実験が終了後の3年目に掘り起こす方法に変更したこと、3)圃場で十分な電力(仕事量)が確保できないことから温暖化手法を農電ケーブルからオープン・トップチャンバーに変更したため農電ケーブルを購入しなかったこと、の3点が挙げられる。
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次年度使用額の使用計画 |
新しい温暖化手法であるオープン・トップチャンバーの枠組の作成に取組むために、その資材を購入する。オープン・トップチャンバーを囲むビニールシートを購入する。葉の光合成特性を評価するために、携帯型クロロフィル計測器SPADを購入する。土壌水分を評価するために、土壌水分センサーを購入する。昆虫と関係のある葉形質の分析のための試薬を購入する。個体群間の遺伝的分化を正確に評価するためのAFLP解析を業者依頼する。
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