本研究の目的は、一般的な気象観測用の雨量計を用いて降雨の捕捉率を低下させる要因を明らかにし、その影響を定量評価することである。今年度は以下の2課題を実施した。1. 降雨捕捉率に影響する要因の現地観測体制を整え、継続的なデータを取得する。2. 観測データを解析し、それらが降雨捕捉率に与える影響を定量的に評価する。 平成29年度は課題1を継続しつつ課題2を行なった。具体的には、 (1)東京都大島町の上空が開空した斜面に設置した雨量計、雨量検定装置(受雨面積が雨量計の約40倍)、風向風速計および温湿度計から気象データ(降雨量、斜面傾斜、風向、風速、温度、湿度、真値に近い降雨量)を取得し解析した。現地調査は通年で、3ヶ月に1回の頻度で行なった。 (2) 神奈川県丹沢山地堂平地区周辺の上空が開空した谷斜面および森林内の平坦地に設置した雨量計、風向風速計および温湿度計から2014-2016年(3年間)で取得したデータを用い、森林内外での降雨および風速データを降雨イベント別に解析した。 その結果、森林内外の雨量は直線回帰式で近似され、林内雨量は林外雨量の約9割を示した。しかし降雨が一定量(3mm以上)の降雨イベントでは森林内外の捕捉雨量はばらつき、森林内の雨量が森林外よりも大きい現象が見られた。風速が大きくなると(最大瞬間風速5m以上)林内外の降雨はおよそ1:1に収束した。丹沢山地の谷斜面では風向の変化が大きく、風速は森林内よりも森林外で強い傾向があるため、風によって降雨捕捉率が低下し、森林外における雨量が過小評価されたと考えた。丹沢山地に比べて風向の変化が少なく、通年で強風下にある伊豆大島斜面での観測と合わせると、山地や海沿い斜面などの風の強い地域で観測される雨量には捕捉損失量が多く含まれると考えられる。これらの地域における観測雨量は実際の雨量よりも過小評価されている可能性が示された。
|