サワラ天然木に対するヒノキ人工林由来の花粉による繁殖干渉を明らかにするため、平成29年度は、①サワラの自然受粉率及び充実率、②サワラ個体毎の近交弱勢の解析を実施した。その結果、①2個体計78胚珠を対象として調査した自然受粉率は46%(36/78胚珠)であり、13%(10/78)の胚珠がヒノキ科以外の花粉を取り込んでいた。また、自然受粉による充実率は平均約20%であった。②サワラ個体毎の近交弱勢を解明するため3個体を対象として自殖、他殖の交配実験を行い、交配後1部の球果を採集して受粉率を調査するとともに残りの胚珠が成熟種子になった後、充実率の調査を行った。3個体中1個体のみで自殖、他殖について受粉率、充実率のデータセットが得られた。その結果、受粉率は自殖、他殖ともに80%であったが、充実率は自殖で9%、他殖では52%であり、調査した個体が強い近交(自殖)弱勢を有することが明らかになった。この結果を基にKoski(1971)のモデルを利用して推定した胚致死等量は13であった。 研究機関を通じて、サワラと同属のヒノキとの間には明らかな生殖隔離があることが確認され、ヒノキ人工林由来の花粉による繁殖干渉が生じる可能性が明らかになった。また、当初想定していたヒノキ以外の他種花粉の取込による繁殖干渉が起こっていることも確認できた。ヒノキ科の花粉についてはDNA多型による種判別法が確立でき、ヒノキの花粉が大量に飛来していることが確認できた。 繁殖干渉がサワラ自然受粉種子の充実率の低下にどの程度の影響を及ぼしているのかを推定するモデルの構成を検討した。平成29年度の実績に記載したようにサワラは近交弱勢を有し、その程度は個体毎に異なるため、最終的なモデル構築のためにはサワラの近交弱勢を推定する必要があることが明らかになった。
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