研究実績の概要 |
土壌塩類集積によって劣化した乾燥地生態系の保全・修復技術を確立するためには、複数のメカニズムからなる乾燥地植物の耐塩性を評価しなくてはならない。本研究課題の目的は、乾燥地植物体内の有機物および水の酸素・炭素安定同位体比と塩ストレスとの関係を解明することで、乾燥地植物の耐塩性の評価指標を構築することである。 1年次は塩分高濃度の土壌浅層水の利用を明らかにするため、乾燥地植物に多い匍匐性のJuniperus sabinaの苗木の主根と不定根を別のポットに植栽し、主根側には重水を灌水し、不定根側には灌水を停止して乾燥ストレスを与えた後、苗木各部位や土壌の水に占める重水の割合を調べた。その結果、夜間に湿潤な土壌深層から乾燥した土壌浅層へと主根・不定根を介した水の再分配が行われていることが示された。これは土壌浅層の塩分濃度を低下させる効果があると考えられる。2年次は塩分低濃度の結露水の利用を明らかにするため、J. sabinaの鱗片葉に霧吹きで水を噴霧または葉全体を水に沈め、その前後の重量変化から吸水量を推定した。その結果、気孔の開閉に関わらず葉から吸水することが示され、夜露の利用による塩回避が示唆された。3年次は水利用効率の向上による耐塩性を評価するため、エジプト紅海沿岸の高塩分環境に生育し、匍匐枝と不定根を有するAvicennia marinaの葉の炭素・酸素安定同位体比と塩ストレスとの関係を調べた。A, marinaの葉の炭素安定同位体比は不定根からその葉までの距離と相関があったことから、高塩分環境では不定根の存在が葉までの水輸送距離を緩和することや水輸送距離の増加にともなう通水性の低下に葉の水利用効率を高めることで対応していることが示唆された。以上より、乾燥地植物の塩ストレスへの対応である塩回避と耐塩性について安定同位体を用いた評価手法を確立することに成功した。
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