研究実績の概要 |
本研究では、天然林(落葉広葉樹)と人工林(スギ、ヒノキ)から成るパッチ・モザイク構造が渓流魚(アマゴおよびイワナ)個体群の空間的動態(成長、移動・分散、繁殖)とどのように関わっているかを水系ネットワーク全体で捉えることを目的としている。2016年度は、2015年度に愛媛県の仁淀川水系・黒川(天然林優占水系)に設定した調査地(総流路長0.6-1.4 km)で調査を継続し、黒川での調査を完了した。これにより、当初の予定通り、人工林が優占する連続水系1流域(石手川, 2013-14)、人工林が優占する分断水系2流域(石手川, 2014-2015)、天然林が優占する連続水系3流域(黒川, 2015-2016)において初夏から秋における個体数動態に関する2年分が得られた。これらのデータから得られた結果は以下のとおり。 人工林優占連続水系では天然林区間においてアマゴの現存量が高く、個体数減少率が低くなる傾向が見られたが、分断水系と天然林優占水系ではともに、そのような天然林の効果を示唆する傾向は認められなかった。どの水系においても新規加入時期である5月ではアマゴ(またはイワナ)当歳魚の分布は不均一であり、その後、繁殖期前の9月にかけて、高密度区間から低密度区間へと分散する明瞭な傾向が認められた。すなわち、水系全体での密度の平均化が起こっており、両種個体群は水系全体を効率的に利用していることが示された。しかし、分断水系においては移動阻害構造物によって水系全体の効率的利用が阻害されていることが示唆された。また、潜在的な競合関係にあるアマゴとイワナ両方が生息する黒川においては、移動分散における種間での違いが見られ、アマゴよりもイワナの方が分散傾向が強いことが示唆された。これまでに得られた知見の一部を日本生態学会中四国支部会、日本魚類学会および河川生態系に関する研究会において発表した。
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