本研究は,渓流水中の硝酸塩濃度が高い流域で樹木が窒素飽和に伴うリン制限になっているかどうかを明らかにすることを目的として,1)渓流水中の硝酸塩濃度が高いサイト(福岡新谷),2)リン制限のサイト(福岡御手洗水),3)窒素制限のサイト(椎葉大藪)において,ヒノキ葉のストイキオメトリー(窒素:リン比,以下NP比)のサイト間比較を行った.昨年度は,福岡新谷において必ずしも樹木がリン制限になっていないことが明らかになった.本年度はこれらのサイトに加えて福岡演習林と宮崎演習林の他地点でヒノキ葉のNP比を計測し,さらに,リターや土壌の化学分析を行い,リン利用効率の計測を行うことで,リン制限にならない原因について考察を行った. 他地点でヒノキ葉のストイキオメトリーを計測した結果,福岡演習林のスギ・ヒノキのNP比は宮崎演習林よりも高かったが,リン制限のサイト(福岡御手洗水)よりも低く,必ずしもリン制限になっていないことが確認された.さらに,リター計測から推定された窒素とリンの樹木による吸収量は福岡新谷で他サイトと比べて高かった.このことから増加した窒素吸収量によってリンの要求量が増加していることが示唆された.土壌の可給態リン分析の結果から,ヒノキによるリンの吸収量の増加はリンの吸収効率を上げることで達成している可能性が示唆された.以上のことから,大気沈着量が増加しているにも関わらず樹木がリン制限にならないのはリンの利用効率を高めているためと結論した.
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