裸子植物(針葉樹)は葉緑体チラコイド膜における酸素還元反応(Mehler[メーラー]反応)の能力が被子植物よりも10倍高い。Mehler反応によっては光化学系Ⅰから酸素へ電子が流れ活性酸素が生成する。通常、活性酸素は葉緑体内で速やかに消去される。植物はMehler反応によって豊富に存在する酸素を電子受容体とすることで、電子伝達鎖の過剰な還元を回避することができる。その結果、二酸化炭素が不足する状況下でも電子伝達鎖を電子が流れ、チラコイド膜内外にプロトンの濃度勾配が形成され、過剰光の熱散逸を誘導することができる。このようにして、Mehler反応と活性酸素消去系は、光合成の安全弁(Safety valve)として機能すると考えられている。裸子植物はこの機能への依存が被子植物よりも大きいと予想される。 Mehler反応の解析における最大の障壁は、同反応を非破壊的に調べる方法がないことにあった。我々は飽和光パルス照射後のクロロフィル蛍光強度の減衰に着目し、酸素還元反応の能力を評価した。28年度はこの手法の確立を目指し藍藻を用いた。メーラー反応は藍藻において酵素フラボダイアイロン1によって触媒される。そこで同タンパク質をコードする遺伝子を破壊した欠損株を作製した。欠損株における蛍光減衰は野生株よりも遅かった。この結果は、飽和光パルス照射後のクロロフィル蛍光の減衰はMehler反応に依存することを示す。 本補助事業初年度の阻害剤実験および二‐三年目の欠損株実験により、酸素還元(Mehler)反応の能力の新規解析法を提示することができた。二年目以降、シロイヌナズナ突然変異株を用いた蛍光減衰の多成分解析も試みた。その結果、Mehler反応の能力に加えて、光化学系Ⅰ循環的電子伝達の能力の評価も可能となった。以上の成果により、裸子植物と被子植物の光合成機能を統一的に解析することが可能となった。
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