本年度は主に、ヒルギダマシの病害と内生菌について知見を得た。本種は西表島のマングローブ林においてメヒルギ同様に、海沿いの林縁部に、あるいは林外に単木状で、出現する。その樹形もまた低樹高でテーブル状の樹冠を示すことが多い。ヒルギダマシの若い茎葉から分離される内生菌群を同所のメヒルギと比較すると、双方に出現する菌種もあったが、優占する菌種は常に異なった。ヒルギダマシでは、潮汐による冠水頻度の異なる位置でも内生菌の出現菌種や分離頻度が大きく異なることはなかった。樹木病原菌に関しては、ヒルギダマシの枯死枝から、Fusarium sp.が高頻度で分離され、枝枯症状の病原と考えられた。本菌はメヒルギの枝枯部からは通常分離されない菌である。メヒルギに枝枯病を引き起こすCryphonectria sp.はヒルギダマシからは分離されなかった。ヒルギダマシの枯死枝は、メヒルギより下方でも出現するが、大潮満潮時の水面高よりも上部に多く観察される点ではメヒルギと一致し、樹形の形成に枝枯病害が関与していることが示唆された。 こうして、琉球列島の純マングローブ7樹種中、メヒルギとヒルギダマシに異なる病原による枝枯性病害が見られた。両樹種では、それぞれ複数の病原により樹冠上部の幼若な梢端の枯死が頻発していた。両樹種とも林縁によく出現するが、枝枯性病害と梢端の枯死で低樹高が強いられ、その結果、林外からの風波に耐え、個体としては長期に生存していた。すると、病害を「よく」利用できた両樹種が、林縁をふちどってヒルギ林の維持に寄与しているとも解釈できる。一方、メヒルギ、ヒルギダマシの茎葉の内生菌には、数種の優占的な菌種があり、その分離頻度は場所や季節により異なる。偶々その組織へ胞子感染する機会があった菌が感染定着しているように見える。特定の内生菌種と枝枯病の発病進展との間に、明瞭な関係は認められなかった。
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