研究課題/領域番号 |
26450203
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研究機関 | 長野大学 |
研究代表者 |
高橋 一秋 長野大学, 環境ツーリズム学部, 准教授 (10401184)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ツキノワグマ / クマ棚 / クマ剥ぎ / 林冠ギャップ / 生物間相互作用 / 森林生態学 |
研究実績の概要 |
「植物の更新・繁殖」研究:ツキノワグマが10年かけて作った小規模林冠ギャップがツル性木本のホストツリー選択にどのような影響を与えるかを分析した。 林内に20個のプロット(20×25m)を2009年に設置し、その年と2015年に毎木調査(胸高直径15cm以上)を行った。クマ由来の小規模林冠ギャップの面積は、クマが折った枝のサイズと傾斜角度から推定した値(落下枝推定法)と全天空写真から算出した値から推定式を作成し、樹木1個体ずつ求めた。落下枝推定法を用いた小規模林冠ギャップ調査は2006年~2016年の11月に行った。各プロット内に出現したツル性木本(胸高直径3mm以上)の種名と樹上での占有樹冠面積(短径、長径)、ツル性木本が取りついていた樹木(ホストツリー)の種名と最高到達点の位置(樹冠下の幹、樹冠の下部、中部、上部)を記録した。ツル性木本の調査は2016年10~11月に行った。 林冠層に達していたツル木本のみを対象に、一般化線形混合モデル(GLMM)(ランダム効果:ホストツリーの種名)で解析した結果、林冠木1個体当たりの小規模林冠ギャップ面積は、その林冠木をホストツリーとして選択していたツル性木本の個体数、種類数、占有樹冠面積に有意な正の効果を与えていた。以上の結果から、ツキノワグマが10年かけて小規模林冠ギャップを作った樹木をツル性木本はホストツリーとして選択し、その林冠ギャップを利用することで成長していたことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、クマ由来の林冠ギャップ下における光環境の特性、それに対するギャップ周辺の植物の反応を階層別に、かつ複数の生活史レベルで分析すると同時に、その植物の反応(開花・結実の促進)が花粉媒介者(昆虫)および果実食者・種子散布者(鳥類・哺乳類)の誘引に与える影響を分析することで、ツキノワグマによる林冠ギャップ形成を契機とする「生物間相互作用ネットワーク」の解明を目指す。 「林冠ギャップの構造」研究:クマ棚モニタリングサイト(1.8ha)とクマ剥ぎモニタリングサイト(1ha)において、創出された林冠ギャップの面積・空間分布・発生密度に関するデータの収集・蓄積を3年間の研究期間中に計画通りに実施できた。 「光環境の改善」研究:クマ棚・林冠ギャップ下における光環境の特徴と変化を定量化し、調査を完了することができたが、クマ剥ぎ・林冠ギャップについてはクマ剥ぎによる立ち枯れ木に照度ロガーを設置するのが予想より困難だったため、設置方法を検討するに留まった。 「植物の更新・繁殖」研究:当初の計画通り、クマ棚・林冠ギャップと樹木の枯死による林冠ギャップの面積が下層の植生構造に与える影響を明らかにできた。クマ剥ぎ・林冠ギャップの効果についても、同様の調査と分析を実施する予定であったが、調査日の確保が難しかった。 「動物(花粉媒介者・果実食者・種子散布者)の誘引」研究:ツキノワグマによるクマ棚の形成やクマ剥ぎを通じて創出される林冠ギャップが、その林冠ギャップ下に生育する植物の開花・結実の促進に与える影響と、それに伴う花粉媒介者と種子散布者の動向を調査する予定であったが、対象としていた液果植物の開花・結実の状況が悪く、予定していた調査が実施できなかった。また、このテーマの調査は、樹木に登って林冠層で調査を行う必要があるが、その調査手法の開発に時間がかかった。
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今後の研究の推進方策 |
「林冠ギャップの構造」研究、「光環境の改善」研究、「植物の更新・繁殖」研究については、おおむね順調に進展している。「光環境の改善」研究では、クマ剥ぎ・林冠ギャップ下における光環境の特徴と変化をモニタリングする手法の確立に今後重点を置くとともに、調査を開始する。「植物の更新・繁殖」研究では、クマ剥ぎ由来の林冠ギャップの面積が下層の植生構造に与える影響を明らかにするために、平成29年度に毎木調査と植生調査を実施し、5年前に実施した同様の調査データと比較する。 「動物(花粉媒介者・果実食者・種子散布者)の誘引」研究については、調査方法の検討とその試行に留まっている状況である。平成29年度は、ツル性木本(液果植物)の開花が認められた林冠ギャップに衝突板トラップを設置し、花に訪れるマルハナバチ類を捕獲し、花粉団子の分析によって花粉媒介者としての挙動を把握する予定である。また、同じ調査木の林冠層に自動撮影カメラ・ビデオを設置し、果実に訪れる鳥類・哺乳類を撮影するとともに、シードトラップを樹冠下に設置し、種子散布者としての鳥類の挙動を間接的に把握する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
「動物(花粉媒介者・果実食者・種子散布者)の誘引」研究に関するフィールド調査を計画通り実施できなかったため、調査機材(衝突版トラップ、シードトラップ、センサーカメラ)、調査用具全般(野帳・標識テープ・ビニール袋、ナンバーテープ・ガンタッカー芯、捕虫網・三角紙・昆虫針・展翅板・標本箱ほか)、フィールド調査旅費などの支出ができなかったことが主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
前述の調査機材、調査用具全般を購入し、フィールド調査を実施する。
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