研究課題
植物には病原体の感染に対抗するための初期防衛反応として酸化バーストが重要であり、各種活性酸素種を生産することが知られている。マツノザイセンチュウに感染したマツも活性酸素種を大量に生産し、生態防衛を行っていることが知られており、またマツノザイセンチュウ側からも酸化ストレス応答分子・解毒代謝酵素等が分泌されているデータを得ていた。本研究室の研究により、病原性の異なるマツノザイセンチュウ系統は、酸化バーストにおいて主要分子である過酸化水素水に対する抵抗性が異なることを発見し、カタラーゼ遺伝子発現で説明がつくことを発見した。すなわち、病原性の高いマツノザイセンチュウ系統は、非常に多くのカタラーゼを発現することができ、過酸化水素水に対する抵抗性が高いことがわかった。また、マツノザイセンチュウ随伴細菌のなかには、カタラーゼ活性が高く、酸化ストレス抵抗性も高いこと、さらにマツノザイセンチュウ表面に随伴することで、マツノザイセンチュウの酸化ストレス抵抗性を付与することも見出しており、ゲノム解析および逆遺伝学的解析によりその分子機構を解明することができた。マツノザイセンチュウ随伴細菌の1種Serratia sp. LCN16のゲノム解析の結果、ゲノムサイズは5.09 Mbpであり、予測遺伝子数は4,804遺伝子であった。遺伝子構成を見て、植物内生細菌の特徴を備えていたこと、酸化ストレス抵抗性遺伝子が揃っていたことが大きな特徴であり、本細菌の生態的特徴を反映しているといえる。また、カタラーゼ酵素をコードするKatA遺伝子、およびその転写因子であるoxtR遺伝子をノックアウトさせると、随伴細菌としての特徴が欠失してしまうことが分かった。以上のことから、本細菌が有する酸化ストレス抵抗性に関する特徴の分子メカニズムを明らかにすることができ。現在論文投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
「ゲノム解析(Genomics)」と「遺伝学解析(Genetics)」を組み合わせたマツ枯れ病関連細菌の機能解析ができたことはまさに当初計画していたとおりの結果であり、当該分野における大きな進展であったと自信をもっていえる。接種試験に関しては、条件設定の難しさに加え繰り返しの必要性があることから、最終年度に持ち越す必要が出てきたが、チャレンジングな実験こそ多くの収穫が期待できるものであるため、引き続きチャレンジしている。
本申請研究のまとめの年度であり、①マツ枯れ病における細菌の役割について、マツ苗を使った感染実験で示し、②植物、マツノザイセンチュウ、および細菌の酸化ストレス応答の遺伝子動態について、遺伝子発現解析から把握し、③細菌の役割の分子メカニズムについて、変異体を用いた遺伝学的解析から示すことを完成させる。②および③の実験は前年度で完成させており、データをまとめて論文投稿中である。①については、感染させる細菌変異体やマツノザイセンチュウ系統の組み合わせを変えながら、引き続き実験を繰り返し再現性あるデータの取得を目指している。本研究の最終テーマである、マツノザイセンチュウと宿主マツ、さらにマツノザイセンチュウと共生関係にある細菌の3 者間で繰り広げられる、寄生・共生関係のバランスを「酸化ストレス応答」をとおして説明することができるようになる。
2016年2月に投稿して年度中に採択されると考えていた論文投稿代(BMC Genomics)、および3月中に注文した物品があり、これらの合計が次年度使用額に相当する。
3月中に注文した物品への支払いに充てた。論文投稿代も4月に入ってから支払ができ、4月23日に掲載された。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 23908
10.1038/srep23908
BMC Genomics
巻: 17 ページ: 301
10.1186/s12864-016-2626-1
PLOS ONE
巻: 10 ページ: e0123839
10.1371/journal.pone.0123839
http://www3.chubu.ac.jp/faculty/hasegawa_koichi/