研究実績の概要 |
北海道の沿岸域に分布するカシワ海岸林9ヵ所(天塩、浜頓別、白糠、新ひだか、長万部、江差、石狩、伊達、大樹)において気象観測を行い、Penman-Monteith式から地表の蒸発散能λEを推定した。また、最寄りの気象台のデータから、霧日数などを引用して、気象データ間の相関分析を行った。このうち、霧日数は平均気温との間に有意な負の相関が認められ、λEに影響していることが明らかになった。 植物におけるストレス指標となる炭素安定同位体比δ13Cおよびクロロフィルaとbの比(Chl a/b)について、λEを固定効果、調査地と調査年をランダム効果とした一般化線形混合モデルGLMM分析を行ったところ、λEはδ13Cの場合に負の効果を、Chl a/bの場合は正の効果をもつことが認められた。この結果により、海霧の発生によって葉の蒸散速度が抑制され、集光能力を高めていることが示唆された。石狩と白糠でカシワ葉の蒸散速度を測定したところ、霧日数の多い白糠での測定値は常に石狩での測定値より低かった。 日蒸発散量(6月~8月)について、白糠と石狩のカシワ林縁で比較したところ、乾性気候の石狩が湿性気候の白糠より高い傾向にあることが明らかになった。 長万部の湿地縁で砂丘微高地と低地で日蒸発散量(6月~8月)を推定したところ、白糠と同程度で、微高地(2014年, 0.68mm·day-1; 2015年,0.53mm·day-1)と低地(2014年, 0.29mm·day-1; 2015年,0.45mm·day-1)で立地の凹凸による大きな差はないことが示唆された(2016年は微高地に設置したセンサーに不具合があり、比較できず)。
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