人為的要因などで山地から河川へ流出する濁り(微細土)は水質悪化や水生生物への悪影響をもたらすが、森林の林床、特に落葉堆積には濁水をろ過する機能があることが知られている。本課題では実験的手法で林床の濁水ろ過機能を定量化するとともに、人為的に落葉堆積量を増やし濁水ろ過機能を向上させることが可能かについて検討した。 ナラ林およびスギ林において濁水ろ過実験をそれぞれ1年間実施した結果、ナラ林、スギ林ともに初期のろ過機能は極めて高く懸濁物質の9割前後をろ過できたが、濁水を流し続けると土壌表層の目詰まりによって徐々に機能低下した。別途、林床の堆積リターを倍増して実験したが、ろ過機能向上は認められなかった。ただし、越冬後の最初のろ過実験では、ろ過機能がわずかに回復しており、冬期間のリター細片化で濁水との接触面積が増大したためと推察された。懸濁物のろ過速度は見かけの浸透能と正の相関があり、林種によらず同じ式で近似できた。簡易な浸透能試験でろ過機能を推定できる可能性がある。 林床リター堆積量に影響する要因の調査および人工物(園芸用支柱、ネット)による落葉堆積実験では、調査地の風が弱く林床に多年生草本が多かったために落葉移動が低調で、明瞭な結果が得られなかった。ただし、落葉堆積量や浸透能には林種間で差が認められた。さらに、実験後の水路跡からの濁水発生状況も調査したところ、微細土流出量は以前調べた未撹乱林床と明確な違いはなかった。本研究の懸濁物質負荷量33.3 kg/m2では大きな問題はないが、負荷量がもっと大きくなれば濁水流入箇所が新たな濁水発生源となる恐れも考えられる。 今後はリター供給が林床の浸透能を通じて中長期的に森林の濁水ろ過機能におよぼす影響を調べて行きたいと考えている。
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