本研究は、暗い林床に長期間生きるヒバの更新特性が、生理的な対応のみでなく、伏条による個体の生産と消費バランスの構造的なリセットにより達成されるという新たな仮説の検証である。これにより、高木の更新戦略に新たな視点を示すとともに、ヒバの択伐林施業において、十分な稚樹の確保に役立てる。 調査は、津軽半島に位置し、約80年前時点で、林冠が閉鎖したブナ林の林床にヒバの実生が存在した場所で、現在でもそのままヒバの稚樹群が維持されている場所にプロットを設定して行った。今年度はプロットを10m x 30mから、20m x 30mに拡張し、5mごとにサブプロットを設置した。プロット内に存在するすべての幹の位置の測量と、タグによるナンバリングを行い、各幹の根元径、幹高を測定した。各幹からDNAサンプルとして葉を採取し、個体識別のためのDNA分析(EST-SSR 分析)を行って、同一遺伝子を持つ幹のまとまり(ジェネット)の範囲を明らかにした。各幹のサイズは、根元径が2cm程度で幹高が2m程度の階級が最も多かった。一個体あたりのラメット数は、1本のものはわずかであり、多いものでは80本以上のものもあった。最大のジェネットでは、水平距離で10mを超える範囲まで広がっていた。これにより、ヒバは、暗い林床では樹高成長はほとんどできないものの、伏条によって幹数を増やすことができることが明らかになった。また、幹数の増加に伴い、水平的に分布範囲を大きく広げる個体があることが明らかになった。
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