銀閣寺山国有林(京都市左京区)の、ナラ枯れ被害を受けた、ニホンジカの採食圧下にある広葉樹二次林において、ナラ枯れ跡の森林の再生状況を調査し、森林内の上層木については、ナラ枯れにともないコナラが減少していた一方、アラカシの優占度が増加していた。アラカシはナラ枯れの影響をあまり受けず、またシカによる剥皮も受けていたが、それにより枯死することは少なかった。下層木について、ナラ枯れ・シカ増加の前後での各樹種の残存確率および新規定着確率を推定したところ、アオキなどの樹種の残存確率がとくに低い一方、ナラ枯れ跡のギャップでは、カラスザンショウなどの先駆種のほか、シカの不嗜好性樹種であるクロバイやナンキンハゼの定着確率が高かった。 さらに、シカ柵内外で森林の再生状況を比較した。シカ柵内では、カラスザンショウやアカメガシワなどの先駆種に加えて、アラカシ・ウワミズザクラなども萌芽により更新していた一方、シカ柵外では、ギャップ形成後に樹高1.3mにまで更新したと考えられる樹種はクロバイおよびナンキンハゼのみであった。以上の結果から、ニホンジカの多いナラ枯れ跡のギャップ内ですみやかな更新をはかるためには、シカ柵設置などの対策が必要であると考えられた。 また、滋賀県大津市においても同様の森林において、下層植生に出現する維管束植物を調査した。その結果、ナラ枯れ発生・ニホンジカ増加の前の2001年の結果と比較すると、2001年にもっともよく出現していたイヌツゲでは、広域的な出現しやすさには明確な減少は認められなかったものの、出現確率自体は減少していると考えられた。この結果は、ニホンジカの採食の影響などにより、イヌツゲの個体密度が減少している可能性を示唆するものであり、森林の構成樹種を変化させていることが示唆された。
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